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浦野 芳子 text by Yoshiko Urano 
[2013.02.12]

勅使川原三郎が佐東利穂子のために創った詩『ダンサーRの細胞』

『ダンサーRの細胞』 勅使川原三郎:監修・演出・振付・美術・照明・衣裳
出演:佐東利穂子 ジイフ 鰐川枝里 加藤梨花 林誠太郎 U18(ダンスワークショップ・プロジェクト参加者)

天井から白い糸が吊るされている客席に座る。
やがて、糸越しに見つめる暗闇の舞台を光の糸が横断し、その細い、頼りない糸から落ちないように体をこわばらせながらジイフの後ろ姿が去って行く。
続いて、光の中に居る佐東利穂子が、何かに突き動かされるように動き始める。
その何か、とはピアノの音だ。
こぼれるようなピアノのメロディーの一音、一音が、佐東の身体を突き動かす。
それは身体の外側からやって来る衝撃ではなく、彼女の身体の内側に広がっている衝撃による動きだ。音を身体の中に取り込んだことにより、佐東の身体の細胞が内側から声を上げている。それが“動き”になっている。
そしてさっき、ジイフが光の糸の上で恐る恐る手繰っていた感覚が、佐東の身体の中では鞭のしなやかさを持った稲妻のようにそこにあるのだと知る。

tokyo1302f_01.jpg 撮影:阿部章仁

ここでと気づいた。
『ダンサーRの細胞』の“R”とは、RIHOKO、利穂子のRだったのだ。
そして、佐東が細胞に突き動かされるたびに揺れる白いワンピース風のものこそ、客席に吊るされている糸の正体だ。(衣裳は、糸を束にして編んだロープで創られていたようだったが)。

佐東利穂子のソロダンスの間に、他のメンバーの場面が挟まれる。中頃には、“U18”のメンバー(一般公募から選抜し、約半年間、勅使川原三郎のワークショップを受講しこの舞台に臨んだ5人の少年少女)が現れ舞台上を歩き回る。きびきびと互いの間をすり抜けて歩き回る黒い衣裳の彼らは、今、細胞内で起こっているエネルギーの波動、動き、そういうものなのだろうか。エネルギーは出口がわからないとああやってせわしなく歩き回るのだろう。やがてそのエネルギーの高まりを、佐東のソロが引き受ける。

終盤で使われた、うごめく裸体の男たちの映像や、窓のように使われた照明は、佐東自身が自分の内面、あるいは内面のスクリーンに映し出された感情を覗いているような意味を感じさせ、同時に闇の中にそこだけある光は孤独な内面さえ窺わせるようで、ひときわ印象的だった。
終盤、佐東が発する声は、メッセージや声として作ろうとしたものというよりは、やはり細胞が吐き出す自然な営みの産物に思われた。終盤、さすがの佐東も息があがっているところでこのタイミングが挟まれるのが絶妙だった。

ダンサーとは、観客という他人に自らの身体をさらす目的のために、とことん自分のからだ、内面と向き合い対話を重ねる人たちだ。そこを突き詰めると、細胞にまでたどり着くのだろう。
優れたダンサーのひとりである佐東利穂子を通して、私たちはダンサーの身体と意識の中を旅することになった1時間強であった。糸を使った客席の演出も、今日はダンサーの内面を旅していただきます、という意味で、あらかじめ客席をダンサーの内部に見立てたものなのかも知れない。

空間もダンサーの衣裳も黒。そこに白いロープの衣裳で現れる佐東と、闇をさまざまに切り取って見せる照明が効果的だった。
(2013年1月27日/東京芸術劇場シアターイースト)

tokyo1302f_02.jpg 撮影:阿部章仁 tokyo1302f_03.jpg 撮影:阿部章仁 tokyo1302f_04.jpg 撮影:阿部章仁