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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2012.12.10]

柄本弾と佐伯知香がワイノーネン版『くるみ割り人形』で初共演

東京バレエ団
『くるみ割り人形』ワシリー・ワイノーネン:振付

『くるみ割り人形』はクリスマス・シーズンの恒例行事として定着しているだけに、各バレエ団は趣向を凝らした舞台を競い合っている。東京バレエ団は、ワイノーネンによるオーソドックスな版に加えて、ベジャールによる独創的なヴァージョンをレパートリーに持っているのが強み。今年は趣の異なる両者の舞台を比較してもらおうと、11月にワイノーネン版を、12月にベジャール版を上演する。11月公演ではバレエ界の寵児、ダニール・シムキンが客演した日もあったが、今後が期待される柄本弾と佐伯知香が初顔合わせした公演を観た。

tokyo1212i_01.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa

ワイノーネン版を取り上げるのは3年振りという。この版では、少女クララもくるみ割り王子とのグラン・パ・ド・ドゥも、大人のバレリーナが通して踊るのが特色。幕開け、パーティに向かう客人たちが、女性たちはおしゃべりする様を描写したようなパ・ド・ブーレで、男性たちは脚を高く上げて進むシーンは、いつ見てもワクワク感をかき立てられる。佐伯は既にクララの役を演じているだけに、全般に安定感のあるバランスの良い踊りを見せた。ただ、演技の面では少女らしい幼さはあまり打ち出していなかった。王子に変身した柄本とのデュエットでは抒情性を漂わせ、第2幕のふしぎの国でのグラン・パ・ド・ドゥでは様式を重んじ、一つ一つのパを端整にこなしてみせた。
一方の柄本は、20歳で『ザ・カブキ』の由良之助役に抜擢されて注目を浴びたが、その後、再演を重ねて一回りも二回りも成長した。今回も、くるみ割り王子としての凛とした存在感を漂わせていたが、初役のせいか演技はやや生硬で、例えばクララに対して感情表現をどうするかなど、迷いがあるように思えた。それでも持ち前のダイナミックなマネージュや歯切れのよい回転技を披露した。場面を追う毎に、佐伯との息遣いも合ってきたようだ。古典全幕物の主演はまだ少ない柄本だが、テクニックも表現力も確かなだけに、今後が楽しみである。

ドロッセルマイヤーの後藤晴雄は弾けるように跳び回ってみせ、子供たちにとって人懐っこい人形師という風だった。ピエロの梅澤紘貴、コロンビーヌの阪井麻美、ムーア人の宮本祐宜は、それぞれ機械仕掛けの人形振りを卒なくこなした。真夜中のねずみたちとおもちゃの兵隊の戦いだが、音楽にのせてステップはそろっていたものの、“闘志”が稀薄なため、クララの恐怖心が伝わってこない気がした。第2幕では、奈良春夏と木村和夫による躍動感あふれるスペインの踊りや、岸本夏未と小笠原亮のバネを利かせた中国の踊りなど、お国振りが楽しめた。『くるみ割り人形』の公演では、他の演目よりは多い子供の観客に配慮して、演出に工夫を凝らすバレエ団もあるが、その点、東京バレエ団の舞台は極めてオーソドックスといえる。真にスピィーディーな展開で、一夜の夢の出来事が強調されたように思えた。
(2012年11月10日 東京文化会館)

tokyo1212i_02.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa