ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2012.11.12]

プラテルがピナを追悼した、悲しみと喜びが葛藤するアナーキーな集団のダンス

Alain Platel/les ballets C de la B アラン・プラテル/les ballets C de la B
『OUT OF CONTEXT - FOR PINA』 Danced and Created (出演・創作)by ´lle Tass, Emile Josse/Quan Bui Ngoc, Hyo Seung Ye, 伊藤郁女(Kaori Ito), Mathieu Desseigne Ravel, Mélanie Lomoff, Romeu Runa, Rosalba Torres Guerrero, Ross McCormack Cocept and Direction(コンセプト・演出)by Alain Platel Dramaturgy(ドラマトゥルク)by Hildegard De Vuyst

アラン・プラテルの主宰するダンスグループles ballets C de la Bによる『OUT OF CONTEXT- FOR PINA』はピナ・バウシュを追悼する作品。ダンス・トリエンナーレ・トーキョー 2012で上演された。
まず客席からダンサーの伊藤都女(かおり)がゆっくりと登場し、舞台奥で服を脱ぎ、赤い大きなタオルをマントのように纏う。

tokyo1211b01.jpg 撮影/塚田洋一

舞台の背景は半円形に黒い幕が降りている。奥には赤い大きなタオルが何枚も重ねられていて、中央にマイクスタンドが二本立てられている。
続いて8名のダンサーが客席からランダムに登場して、同じように服を脱ぎ下着の上に赤い大きなタオルを纏う。そして9名の赤いタオルで身を覆った集団は、お互いに匂いをかぎ合うような動作をしたり、肌の一部をそっと触れ合ったりして、次第にそれぞれの手や足、口といった身体の末梢の部位が細かく痙攣し始めて、このダンスは始まる。
二本のマイクをを使って、奇妙な動物の鳴き声のような叫び、悶え苦しみ嗚咽するような声、マイクを床に落として洞窟の中に響くような音、口にくわえてのどの奥から出される生理的な音などが、ダンサーのくねくねとした見慣れぬ奇妙な動き、あるいは突発的変化のある奇妙な反復などのコントロールが効かない動きとともに、多発的に発生し、一種独特の意想外の、アナーキーともいえる雰囲気を醸す集団が舞台上に出現する。
音楽は、ピアノ曲が少しとパーカションがリズムをとる以外はダンサーたちが歌う数曲の歌(マドンナ、ビヨンセなど)の部分のみで、動きに寄り添うものは使われていない。
偶然なのか、一組のペアができて、愛を試みる仕草を何回かみせる。すると、今までなにもかもがバラバラだった集団が喜びを共感したように、名前を呼びあったり、一列に並んだり、全員が同じリズムで愛の喜びを踊り出す。それぞれのダンサーが主体的に独自の喜びを表すダンスを踊り、宴のように盛り上がったかにみえた。しかし、やがてまた、身体の中のどうにも抑え切れない突発的動きの連鎖が起きる。
そして今度は、観客席から呼び上げられた小学生が、『怪獣のバラード』をアカペラで独唱した「真っ赤な太陽沈む砂漠に大きな怪獣がのんびりくらしてた ある朝目覚めたら遠くにキャラバンに鈴の音がきこえたよ 思わず叫んだよ海が見たい人を愛したい 怪獣にも心はあるのさ 出かけよう砂漠を捨てて愛と海のあるところ」と。
この集団の救い難いカオスをみて、アカペラで歌う『怪獣のバラード』聴いた時、私には思わず胸にグッとくるものがあった。それはあるいは、ピナを追悼する舞台に、かつて共感したピナの舞台を感じたからだったかもしれない。

tokyo1211b02.jpg 撮影/塚田洋一

動きはプラテル作品でしばしば使われる痙攣的・突発的な、意識よっては自律することができないもの。常識的理性を超えたところから発生する、理性とは対立する動きである。かといってそれはなにものからも影響を受けずに、無意味に発生しているわけではない。われわれの理性を超えた超意識といったようなものが、時折、噴出するかのように、この集団を構成する身体たちを突き動かしているのである。至極単純な例えば[悲しみ]といった人類の感情の深奥には反応して、プリミティブな共感を示している、と感じられる所作だったりもする。アラン・プラテルはそれをダンスと呼ぶ。
こう私の拙い観念的な言葉で書いてしまうと、たいへん深刻な作品だったかのようだが、実際の舞台は巧みにユーモラスな表現が配されているし、ダンスを踊る楽しさをダンサーが知っているので、とてもおもしろいプロフェッショナルなダンス作品である。
近年のプラテル作品は、キリスト教的な視野を意識して描かれていたが、今回はピナ・バウシュを追悼するということだろうか、身体集団に直接語らせる方法をとっていた。そこが『OUT OF CONTXT』なのだろうか。
終盤で、直接観客に、「私と踊ってくれる人?」と呼びかけるところなどは、ピナ作品を彷彿させた。しかし、その後ただ一人客席から応じた女性が一緒に踊り、最後にじっと抱き合うエンディングは、プラテル作品の "CONTEXT" に戻ったようでもあった。
(2012年10月3日 青山円形劇場)

tokyo1211b03.jpg 撮影/塚田洋一 tokyo1211b04.jpg 撮影/塚田洋一