ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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浦野 芳子 text by Yoshiko Urano 
[2012.09.10]

差押られた心と身体を読み解く。まことクラヴ『蜜室』

まことクラヴ+『蜜室』
構成・演出・振付:遠田誠

ダンスとは、もしかしたら最高の “謎解き” である。
『蜜室(みっしつ)』と銘打ったまことクラヴ+、の今回の公演。
席に置いてあった公演リーフレットにいきなり“差押物件標目票”のシール。舞台に渡された“差押”とプリントされたテープ。そしてその向こうから現れた人々は身体の随所を“差押”られている、つまりテープで不自由に固定されている。
不自由、あるいは抑圧された何か、に対する異議申し立てなのだろうか。
それとも、そもそも路上を自分たちの舞台としてきたまことクラヴにとって、劇場=ハコ、という空間そのものが抑圧=差押、を意味しているのだろうか。

tokyo1209f03.jpg 撮影:前澤秀登

そんな風にして始まった舞台に現れ、とつとつと語りはじめるのは、“過去に不用意にも振ってしまった人妻(振った当時は独身)に横恋慕している男”と、“恋人だと思っていた男にいいように利用されただけの女”。自分の中に沸いた“想い”に執着することで、彼・彼女の中に物語が生まれる。その物語の周りに、ふたりと関係有るような無いようなどちらともとれるような、人々が入れ代わり立ち代わり現れて、にぎやかな世界を繰り広げていく。
台詞と芝居にダンスが融合して現れる、様々な風景。
それは街を歩いていてふと目に留まった“気になる風景”に、似ていた。怖そうで気になる、怪しくて気になる、楽しそうで気になる…そんな“気になる出来事・風景”を独自の世界から眺め、時にちょっかいを出しているのが今回のゲスト、向雲太郎である。白塗りに隈取り風のメイクの、ひとり異質な存在感+パンツ一丁で子供用自転車を乗り回したり、ソシアルダンスを踊ったり。異次元の人間(=向)が私たちの住む三次元(=まことクラヴ)を眺めている図を、さらに異次元の生き物が眺めていたとしたら(これは観客だ)、こんな感じなのだろうか。しかし向の浮世離れしたその存在感が、まことクラヴが描く生臭い生業の世界、日常の世界を、豊かにスリリングに、そして面白おかしく際立てていたことには間違いない。

そして、なんと人の身体と言うのは個性の塊なのだろう。
まことクラヴのダンスキャリアは、クラシック・バレエから舞踏まで様々だ。その彼らがユニゾンになって踊るのはまさに“雑踏の中を生きる人々”なのだ。朝起きて、ご飯食べて、会社に行く。しかし。一見同じ日常を生きているように見えても、人は絶対にひとりひとり違う人生を生きる。その、ものすごく当たり前のことが、目の前で痛烈なメッセージを帯びる。

執着、は一度抱いた想いの中を堂々巡りせざるを得ない、感情の差押だ。
ハコ、は“壁”と言う限界を生じさせている意味で、空間の差押だ。
その限られた世界の中だからこそ、見えてくるものが、味わえるものが、ある。そこに甘い蜜の味を知る人もいる。
まことクラヴ+の『蜜室』鑑賞後の帰り道、三軒茶屋の薄暗い裏道にするりと頭を滑り込ませる野良猫を見て、少し羨ましい気持ちになった。
(2012年8月8日 シアタートラム)

出演:向雲太郎、まことクラヴ=荒悠平、入手杏奈、江戸川卍丸、王下貴司、長井江里奈、遠田誠、澤田有紀・他/高橋美和子、森下真紀(歌)

tokyo1209f01.jpg 撮影:前澤秀登 tokyo1209f02.jpg 撮影:前澤秀登