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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2012.08.10]

悲劇のドラマをいっそう深めた緻密な演出、井上バレエ団100回公演『ジゼル』

井上バレエ団
関直人 振付、ブリュノ・コーアペ 脚色・演出『ジゼル』

井上バレエ団は第100回公演(井上博文によるバレエ劇場50回、井上バレエ団50回)を迎えて、ピーター・ファーマー美術による『ジゼル』を上演した。
そして同時に出産のため舞台活動を休止していたプリマバレリーナ島田衣子の本格的復帰公演となった。(他日公演は宮嵜万央里)

tokyo1208e01.jpg撮影:友廣賢一

アルブレヒトにはパリ・オペラ座のプルミエダンスール、エマニュエル・ティボー、ミルタは高村明日賀(西川知佳子とWキャスト)、ヒラリオンには藤野暢央、クープラント侯には元オペラ座のエトワールで大ヴェテラン、シリル・アタナソフ、ペザントのパ・ド・ドゥにはデマーク王立バレエ団のアレクサンダー・ボジノフ、バチルド姫には藤井直子というキャスティングだった。
そして演出・脚色にはパリ・オペラ座バレエ団のバレエ教師だったブリュノ・コーアペを迎えアタナソフの指導も加えて、芸術監督で振付を担当した関直人とともにいっそう緻密な舞台作りを目指した。美術、衣装はピーター・ファーマー。

tokyo1208e02.jpg撮影:友廣賢一

その成果が出て、演出はじつに細やかで行き届いている。ジゼルが狂乱に陥るシーンなどは無駄がなく、動きのひとつひとつにドラマチックな意味が込められていた。アルブレヒトに裏切られたバチルダ姫が受けたショックもジゼルとともに公平に描かれていて、それがいっそうアルブレヒトを絶対的な孤立に陥れる。この辺の演出はしつに巧みで、『ジゼル』という既に数知れず上演されてきた作品の奥行きを一段と深め、悲劇の相貌がより深く彫り込まれている。
2幕のアルブレヒトはティボーの熱演で一段と盛り上がった。何回もミルタに踊りを止めてはならぬ、と拒絶されて必死で起き上がって、ジゼルの擁護も虚しくまた倒れ、次第に追いつめられてもはや絶望的となる。客席が「朝の光よ、早く!」と一心に願っている気配がヒシヒシと感じられた。
舞台復帰となった島田衣子のジゼルは美しかった。やや控え目な演舞がかえって全編に渡って落ち着いた流れとなり、良い雰囲気を醸していた。今後の舞台にも大いに期待したい。
(2012年7月21日 文京シビックホール 大ホール)