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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2012.02.10]

ルジマトフのコンラッド、サラファーノフのアリが共演!

The Leningrard State Ballet レニングラード国立バレエ団
Petipa, Gusev, Ruzimatov "Le Corsatre" プティパ、グーセフ振付、ルジマトフ改訂演出『海賊』

マリインスキー・バレエのプリンシパル・ダンサーとして日本の舞台でも見事な踊りを披露してきたレオニード・サラファーノフ。彼の移籍問題は、世界中のバレエファンの話題を呼んだ。そして今回初めて、レニングラード国立バレエ団のダンサー、サラファーノフが日本の舞台で踊った。それも『海賊』のアリをコンラッドに扮したルジマトフと共演するという希有な顔合わせの公演となった。

tokyo1202c03.jpg 撮影/瀬戸秀美 写真提供/光藍社

レニングラード国立バレエ団の『海賊』は、1955年にユーリ・スロニムスキー台本、ピョートル・グーセフ振付でレパートリーに採り入れられた。そのヴァージョンが1994年に、当時の芸術監督だったニコライ・ボヤルチコフにより改訂復元され、日本公演でも上演された。そして2009年には当時このカンパニーの芸術監督だったファルフ・ルジマトフが、改訂演出したヴァージョンを上演した。これはマリインスキー劇場ではもちろん、レニングラード国立バレエ団でも当たり役として何回もアリを踊ってきたルジマトフが、伝統とそのキャリアを反映させて物語を今日的に展開した新版『海賊』である。
さらにルジマトフ版『海賊』の日本初演には、アリではなくコンラッドとしてルジマトフが踊るというサプライズを加わった。そしてそのコンラッドがまさに絶品だった。
かつてルジマトフがアリを踊っていた時には、これが世に言う<当たり役>というものか、と思ったものだ。首領のコンラッドにあくまでも忠実に生きる奴隷役を、メドーラへの密かな憧れが寸分も表面に現れないように、屈折した気持ちを激しいエネルギーに込めて踊るアリ。それはルジマトフ以外には創れない人物像にさえ見えた。ところが今回ルジマトフは、そのアリを優るとも劣ることなく踊るサラファーノフというダンサーの共演を得て、新たにコンラッドの役創りに専念した。すると舞台上に現れるコンラッドとアリの距離が、ロシア・バレエの先輩、ルジマトフと新しい道を模索する後輩のサラファーノフの距離を思わせ、なかなか興味深かった。
サラファーノフが踊ったアリは、ルジマトフのストイックで隙のない人物像とは異なって、どこかに救いをもとめているような印象を残す人間的な匂いがする。これはまたタイプの異なった魅力的なキャラクターだった。 
一方コンラッドは、ロシア・バレエのおもしろさを隅から隅まで身体が知り抜いているルジマトフならではのコンラッドをみせてくれた。海賊に身を落としていながらも、堂々と愛を貫いてロマンティックに汚れなく生きる、バイロン卿が理想とした高貴な精神性を舞踊表現として、鮮やかに浮き彫りにしたのだ。近年、創造された最高のコンラッドだったことは間違いないのではないだろうか。
(2012年1月6日 東京文化会館)

tokyo1202c02.jpg 撮影/瀬戸秀美 写真提供/光藍社 tokyo1202c01.jpg 撮影/瀬戸秀美 写真提供/光藍社