ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2012.02.10]
ローザンヌ国際バレエコンクールで菅井円加が第1位に輝いた、というニュースは、震災、原子力事故、タイの洪水など災害続きだった日本にもたらされた久々の明るい話題だった。バーミンガム・ロイヤル・バレエ団付属のエルムハースト・スクール・フォー・ダンスへの留学を希望している、と報道されていた。バーミンガム・ロイヤル・バレエ団はかつてはツアー・カンパニーだったこともあり、どうしてもロイヤル・バレエ団などよりも格下とみられがちだった。しかし、ド・ヴァロワの英国第2の都市にバレエを本格的に定着させよう、という方針もあってロイヤルの称号を許された。さらにピーター・ライト、デヴィッド・ビントレーという優れた指導者の努力もあり、近年は大いにレベルアップされて創作作品も多く意欲的な活動が繰り広げられている。また、2000年までプリンシパルだったケヴィン・オヘアがロイヤル・バレエの次期芸術監督にに決定した。そのようなことが15歳のバレエ少女の目に希望を感じさせたのかもしれない。マラーホフやフィーリン、熊川哲也などのダンサー出身の芸術監督の活躍、あるいはロシアのバレエダンサーたちの過去の権威に囚われない移動など、世界のバレエ界は大きく変動しつつあるのではないか、若い日本人のバレエダンサーの言葉からそんなことを考えた。

ヤパーロワ、ヤフニューク、レベデフ、吉田都などが際立った「新春ガラ」

The Leningrard State Ballet レニングラード国立バレエ団「新春スペシャル・ガラ」
Boyarchikov "The Nutcracker" ボヤルチコフ改訂演出『くるみ割り人形』第2幕
Petipa, Ivanov, Gorsky, Messerer "Swan Lake"M.プティパ/L.イワノフ,A.ゴルスキー、A.メッセレル振付、M.メッセレル再演出『白鳥の湖』第2幕
Petip, Sergeyev, Lopukhov "Raymonda"M.プティパ、K.セルゲーエフ、F.ロプホフ振付『ライモンダ』第3幕
tokyo1202a02.jpg 撮影/瀬戸秀美 写真提供/光藍社

レニングラード国立バレエ団は、昨年、1990年からスペイン国立舞踊団の芸術監督を務めてきたナチョ・ドゥアトを新しい芸術監督として迎えた。ドゥアトの作品は日本では、新国立劇場バレエ団や牧阿佐美バレヱ団が小品をレパートリーとしていた。それらのほとんどがイリ・キリアンの薫陶を受けたドゥアトのノン・プロット作品だったので、古典名作バレエを主体としていたレングラード国立バレエ団にどのような変化をもたらすのか、大いに関心を呼んだ。しかし大きく芸術性が異なるように見えるが、ドゥアトの2008年に日本でも上演された『ロミオとジュリエット』は、じつにオーソドックスな演出・振付だった。そこにはバレエをベーストするダンスとして通底するものがあったはずである。
そして、スペイン国立舞踊団はドゥアトが芸術監督を務める前は、リリコ・ナショナル・バレエ・シアターという名称で、マイヤ・プリセツカヤがその任にあった。(その前任はレイ・バーラ)
また2005年に首席バレエ・マスターに就任したミハイル・メッセレルは、芸術家一族として有名なプリセツカヤの縁に繋がっている。そうした関係がドゥアトの招聘に直接関わっていたかどうかは分からないが、元々、交流のチャンネルはあったのだった。
実際、芸術監督はドゥアトとなったが、今回の公演の出し物は今まで通り古典名作に手を加えたものだった。まずお正月早々の3日に行われた新春ガラ公演では、第1部『くるみ割り人形』第2幕〜おとぎの国〜、第2部『白鳥の湖』第2幕〜オデットと王子、湖畔の出会い〜、第3部『ライモンダ』第3幕〜ライモンダの結婚式〜が上演された。

tokyo1202a01.jpg 撮影/瀬戸秀美 写真提供/光藍社

第1部は可愛らしいアイディアをちりばめたボヤルチコフ版。第1幕の物語をじつに簡略に振りの中に表して、第2幕と合わせて独立しても上演できるように手際の良くまとめている。振付家としての長いキャリアを生かした巧みなストーリー・テリングに感心した。ともにこのカンパニーのスター候補生とも言えるサビーナ・ヤパーロワがマーシャ役を、アンドレイ・ヤフニュークが王子役をきびきびとケレン味なく踊った。
第2部の『白鳥の湖』は、ボリショイ・バレエ団で上演されていたゴルスキー版を踊っていたアサフ・メッセレルが改訂したもの。さらにアサフの甥にあたるこのカンパニーの首席バレエ・マスター、ミハイル・メッセレルが手を加えている。
長年このカンパニーでプリマを務めるイリーナ・ペレンのオデットとワガノワ舞踊アカデミー出身で新進気鋭のヴィクトル・レベデフのジークフリードだった。ペレンは安定感のある堂々とした踊りだったし、レベデフは若々しい演技だが落ち着いてしっかりと内面を表現している。表現力のあるペアが踊ったからだろうか、このヴァージョンの湖畔のシーンは、ロットバルトとオデットとジークフリードの3者の関係が、踊りと動きの中でじつに分かりやすく観られた。
第3部はライモンダ役に吉田都を、騎士ジャン・ド・ブリエンヌ役に英国ロイヤル・バレエのプリンシパル、エドワード・ワトソンをゲストとして迎え『ライモンダ』第3幕の結婚式のシーンが上演された。ライモンダは第1幕の夢のシーンでも描かれるように、十字軍遠征が行われる世の中で結婚式を迎える女性の愛の不安をモティーフとしたもの。ヒロインにはフェミニンな女性らしさが求められるが、吉田都のライモンダはその微妙なタッチを踊りのラインに美しく表した。正確無比のポワントワークと心のこもった演技から紡ぎだされた舞台である。その点、ワトソンのジャン・ド・ブリエンヌは逆に野性味を出して欲しかったのだが、少々物足りなかったのではないだろうか。
ドゥアトやメッセレルが加わって、レニングラード国立バレエ団のダンサーたちは、みんな若々しくなり、舞台姿もいっそう良く整えられているように感じられた。
(2012年1月3日 東京国際フォーラム ホールA)