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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2011.09.12]

一瞬一瞬の演技が光ったヴィシニョーワのジゼル

レオニード・ラヴロフスキー振付『ジセル』
東京バレエ団
tokyo1109b01.jpg photo:Kiyonori Hasegawa

マリインスキー・バレエの名花、ディアナ・ヴィシニョーワと、この8月にモスクワ音楽劇場バレエからボリショイ・バレエに移籍したばかりの若手、セミョーン・チュージンを迎えて、東京バレエ団が『ジゼル』を上演した。同団にとって、ヴィシニョーワとは3度目の『ジゼル』だが、チュージンとは初共演である。今回、ヴィシニョーワの表現の幅がさらに深まったのを感じた。
ヴィシニョーワのジゼルは可憐そのものだった。アルブレヒトに対するはにかみも次第に解け、想いをこめてポアントの片足で繊細にホッピングする姿は愛らしかった。バチルド姫の豪華なドレスに魅せられて、思わず地面に座って裾に触れ、彼女が家の中に入る時に裾を捧げ持つといった仕草からは、貴族の世界へのあこがれも感じられた。それだけに、アルブレヒトの裏切りを悟った後の狂乱の場では、突然、現実世界から立ち切られてしまい、何もかもが分からなくなったというような絶望的な喪失感が伝わってきた。
ブロンドの髪を揺らせて登場したチュージンは、長身ですらりと伸びた美しい脚の持ち主だけに、かなり目立つ存在だった。上体が柔らかく、ジャンプした時に脚が描く滑らかなラインが魅力的だった。颯爽とした振る舞いは、最初のうち、むしろアルブレヒトよりロミオを思わせた。だが、ジゼルに追いすがるヒラリオンを退ける威厳あふれた姿勢はさすがだった。身分を知られた後、バチルドの前ではジゼルを無視するのは当たり前というような演技だっただけに、ジゼルが絶命したことで受けた衝撃の強さが説得力を持った。
ウィリとなったヴィシニョーワは、アラベスクで見事な速さで回転を続け、宙をさまようようなジャンプを見せ、アルブレヒトとこだまするように飛び交った。けれど、はかなさや透明感というより、どこか芯の強さを漂わせていたように思う。だからか、アルブレヒトが救われたと知った後、ジゼルとしての思いをよみがえらせたようで、永遠の別れの切なさが強調されてみえた。

tokyo1109b02.jpg photo:Kiyonori Hasegawa

チュージンも鮮やかにピルエットやジャンプをこなした。リフトも巧みで、ヴィシニョーワが空中を漂っているように見えたものだ。乱れることなく繰り返したアントルシャは見事だったけれど、溢れる想いをステップから立ち昇らせて欲しい気もした。二人の踊りの息はピッタリ合っていたが、解釈に関してはそれぞれ独自の考えがあるようで、必ずしもしっくり溶け合ってはいないように見えた。それにしても、ヴィシニョーワの全く隙のない緻密な役作りは際立っていた。
木村和夫はヒラリオンを何度も演じているが、今回も朴訥なヒラリオンそのものだった。芝居がよりきめ細かくなったようで、最初に登場する場面で、ジゼルに会いたい気持ちとそっとしておこうという気持ちのせめぎ合いを、手にとるように身振りで伝えていた。バチルド姫は吉岡美佳。この役を繰り返し演じているだけに、立ち姿や身振りで放つ高貴さに磨きがかかったようだ。8人の男女によるペザントの踊りは、活気あふれるV・ワシーリエフの振付が楽しめた。ミルタの田中結子の踊りは申し分ないが、もっと冷厳さ滲ませても良いと思った。ウィリたちは整然と群舞を展開したが、幻想性の中に無気味さも漂わせて秀逸だった。
(2011年8月17日 ゆうぽうとホール)