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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2011.01.11]

生と死の儚さを幻想的に描いたヴィノグラードフ版『ロミオとジュリエット』

オレグ・ヴィノグラードフ振付・改訂演出『ロミオとジュリエット』
レニングラード国立バレエ団
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2008年、当時芸術監督だったファルフ・ルジマトフの元でレニングラード国立バレエ団で上演されたオレグ・ヴィノグラードフ振付の『ロミオとジュリエット』。キーロフ・バレエ団(現マリインスキー・バレエ団)の芸術監督をおよそ20年近く務めたことで知られるヴィノグラードフは、1965年に最初にこの作品の振付を発表し、その後改訂を行ってきた。レニングラード国立バレエ団への振付も今回が二回目となる。

ヴィノグラードフ版の『ロミオとジュリエット』はまず装置。ヴェローナの広場、キャピュレット家の舞踏会場、バルコニー、教会、ジュリエットの寝室、墓場と短時日のうちに様々に表情の異なった場面でドラマティックに進行するこのバレエの美術・装置は、もう一人の主人公といっていいほど重要である。
ヴィノグラードフのヴァージョンは、舞台の三方を三層の回廊風のアーケードで囲み、さらに中央に幾重にも荘重な円柱が降りてくる。三方が回廊で背景に騎馬に跨がった騎士像が現れればヴェローナの広場、騎士像の代わりにステンドグラスと十字架が現れれば教会、ドレスアップした人々が踊れば舞踏会場、闇の中にキャンドルが揺らめけば墓場と自在に変幻する美的にも機能的にも見事なセットだった。その自在なセットにより、登場人物の出入りは時間的経過を表す暗転ではなくワープする感覚。映画のオーバーラップのようにシーンが転換して、生と死の儚さを幻想的な感覚の中に浮かび上がらせた。
ヴァルコニーのシーンで第1幕の幕が下り、第2幕の幕開きではもう二人のが結婚するシーン。乳母がロミオに手紙を届けにきたりするシーンはない。そしてジュリエットが仮死状態になる薬を飲んで倒れると同時に葬列が現れ、追放されているはずのロミオが舞台上で嘆き悲しんでいる。
ジュリエットの乳母やロミオの友人のベンヴォーリオは登場しないので、ジュリエットやロミオの環境は省略され、代わりに抽象的な「生」と「死」が舞台の上をうつろっている。
冷戦の時代を表すかのように、2大勢力の対立は絶対的存在であり、不条理として捉えられている。ラストの墓場のシーンには巨大な地球が満月のように輝いている。二人の愛がすべてであることを表しているのか、あるいは対立をアウフヘーヴェンするものの象徴なのだろうか。
マキューシオ、ベンヴォーリオとの輝かしい青春の栄光がなかったら、ロミオはティボルトを刺す衝動に駈られたろうか? 乳母に甘える少女ジュリエットを見ていなければ、両親に命じられたパリスとの結婚を拒絶し、死を賭してもロミオとの愛を選ぶ健気な女性へと自立する彼女に感動するだろか? そういった疑問も浮かばないわけではない。
しかしヴィノグラートフの関心はそうしたドラマの因果やリアリティにはなく、ロミオとジュリエットの悲劇の運命、重厚な騎士の鎧兜が表す対立が絶対的に存在する世界に翻弄される愛の姿そのものをどのように舞台上に表現するか、にあったのだろう。
(2010年12月8日 東京文化会館)

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Photo:瀬戸秀美 写真提供:光藍社
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