ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2010.11.10]

熊川哲也の主演、振付ならではのリズムよく楽しいバレエ『コッペリア』

熊川哲也:演出・再振付『コッペリア』
K-Ballet Company
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K-Ballet Companyの熊川哲也版『コッぺリア』は楽しい。そして私は熊川哲也が演じるフランツが好きだ。彼の踊る主要な役の中で一番気に入っている。一般的には熊川はヒーローや王子役を踊るバレエダンサー、と捉えられているかも知れないが、フランツ役で笑顔を絶やすことなく自在に表現するコミカルな味わいは素晴らしいと思う。
開幕冒頭から恋人のスワニルダはそっちのけで、不思議の館のヴェランダに座ってひっそりと読書している少女コッぺリアに向かって投げキスの嵐。仲間が現れると今度は、屈託なく乾杯しながら踊って浮かれる。スワニルダに情の薄さをなじられても平気の平左衛門。たちまちご機嫌をとって仲直りしたスワニルダと踊っていると、きれいな蝶が舞ってくる。すかさずさっと捕まえて簡単に殺し、胸に留めて得意気にみせびらかせて、スワニルダを驚かせる。若々しく活達なエネルギーが横溢する演技と踊りで、リズムよく舞台全体をひっばって、観客との一体感をグーンと盛り上げる。単なるスター性だけではとても不可能なクリエイティヴな力量が、冒頭のシーンだけでも歴然と現れている。
対する荒井祐子のスワニルダがまたかわいかった。やきもちを妬いたり、すねたり、強がったり、恋する気持ちをあらゆる表現を使って機敏に表す。何より様々に変化する愛の表情がヴィヴィッドで素敵だった。

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熊川フランツは麦の穂占いをしたり、ジプシー女にクラクラしたりするが、常日頃から気になって仕方がない不可思議なコッぺリウスの家への好奇心がどうしても湧いてきてしまう。とりわけ謎の美少女コッペリアへの関心を抑えることができない。無意識の世界と向き合う若者は、自ずと思いきった行動にでる。謎めいた館に梯子でよじ登ろうというのだ。
スワニルダも同じように関心を持っているのだが、こちらはフランツが気にしているコッペリアの正体が見たくてしかたがない。そして友だちを巻き込んで大胆不敵にも謎の館に忍び込むが、博士が帰宅して大騒動に発展。機転をきかして人形だったコッペリアに変身して隠れるが、どうしても脱出不可能になる。そして変身したスワニルダをてっきりコッペリアだと信じているコッペリウス博士に、眠らせているフランツの精気を吹き込まれる、という珍妙なシチュエーションに至る。大好きなフランツの精気をを吹き込まれることがちょっと嬉しかったのか、ここでもスワニルダは大いに頑張る。ご老体の狙いを読みきって、「美しい少女はじつは残酷です」とばかり、コッペリウス博士に手痛い仕打ちを次々と繰り出す。哀れ博士は、理想の美には鋭い棘があることを強く知らされ、秘術を尽くしたお手製のフィギュアは無残な姿に曝される。
結局、謎の美少女コッペリアの正体は明かになり、スワニルダとフランツは領主の祝福を受けてめでたく結婚することになった。けれども博士の年季の入ったフェティシズムは、スワニルダの攻撃くらいでは決して懲りない。またもメジャーを持って理想の美の寸法を測ろうとして、街に姿を現した。
そしてダンスの饗宴ともいうべき終局が観客を存分に楽しませてくれる。特に「祈り」を踊った松岡梨絵は、彼女の魅力に生かした踊りで美しかった。
(2010年10月10月4日 東京文化会館)

撮影:小川峻毅
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