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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2010.09.10]

新進気鋭の3人の振付家が新作を上演、K バレエ カンパニー

K-BALLET COMPANY New Pieces
服部有吉:振付『戦慄』 長島裕輔:振付『Evolve』 中村恩恵:振付『Les Fleurs Noirs』

熊川哲也率いるK BALLET COMPANYが三人の新進気鋭の振付家を招いて、コンテンポラリー・ダンスの新作3作を上演した。
K BALLET COMPANYは、今年既に『海賊』『眠れる森の美女』などのクラシック・バレエの全幕物を全国ツアーで上演し、10月には『コッペリア』『白鳥の湖』を上演する。相変わらす日本のバレエ団としては突出して活発な公演活動を行っている。ただ昨年は『ロミオとジュリエット』の新製作があり、バランシン作品の上演があったが、今年は全幕物の大作上演が主体だった。するとやはりコンテンポラリーな振付家とともに新作を創ることは、ダンサーに良い刺激を与え、それぞれのモティベーションを高めることにも繋がるだろう。

招聘されたのは、ネザーランド・ダンス・シアターに所属してイリ・キリアンなどの作品を踊り、近年は日本で振付作品を次々と発表して注目を集める中村恩恵。ハンブルク・バレエ団のダンサーとしてジョン・ノイマイヤーの『ニジンスキー』やシューベルトの『冬の旅』を踊り、現在はカナダのアルバータ・バレエ団のプリンシパルだが、今年3月には『七つの大罪』をカンパニーに振付けた服部有吉。二人は海外のカンパニーでも振付家の才能を認められており、ともに舞踊批評家協会の新人賞(中村は08年『Waltz』、服部は06年『Homo Science』『ゴーシェ』)を受賞している。そしてK BALLET COMPANYからは英国セントラル・スクール・オブ・バレエに学び、ダンサーとして活動しながら振付も手掛ける長島裕輔が参加した。

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服部有吉の『戦慄』は、シューベルトの弦楽四重奏曲 第14番ニ短調『死と乙女』に振付けられた。『死と乙女』は、シューベルトの健康が損なわれてから作曲され、同名の歌曲は病の床にある乙女と死との対話を描いたもの。
白いドレスに長い髪を束ねたSHOKO、黒い死神の宮尾俊太郎、白い衣裳を着けた遅沢佑介がメインで、コール・ドは全身黒い衣裳に仮面を着けていた。暗い舞台にコール・ドがそれぞれ懐中電灯をもって、舞台のあちこちを照射して踊るので、暗闇の中にいくつかの光線が動いて、病に伏している少女の幻想世界を彷彿させる。
少女が死の妖精たちの仮面を剥がしたり、黒と白、光と闇の葛藤などが踊られるが、やがて少女はすべての服を脱いで、死を受け入れたことを表す衝撃的なラストシーンが待っていた。
長島裕輔が振付けた『Evolve』は。スティーヴ・ライヒの『6台のピアノ』(1973年)を使っている。
浅川紫織、東野泰子、神戸里奈、副智美ほか女性7名と橋本直樹、浅田良和(10月の『白鳥の湖』でジークフリートを踊る)ほか男性5名の計12名のダンサーが総タイツでスピーディに踊りあかす軽妙な作品。まずは無音の中、浅川紫織が登場して観客の意識を惹き付け、あとに続くライヒのミニマル・ミュージックによる踊りとのコントラストを際立たせる。同じフレーズをくり返しながら変奏していく音楽を、12名のダンサーのソロ、デュオ、トリオを混成して、巧みに舞台上のヴィジュアルを展開していく。表現そのものに特別鮮烈なものは感じなかったが、動きがセンスよく構成されているので流れが心地よいし、全体のバランスはなかなか優れている、と思った。動きの構成の工夫だけでなく、さらにいっそう、作品のイマジネーションを深めていけば振付家として大いに期待できる。

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最後の曲は中村恩恵振付の『Les Fleurs Noirs』。音楽はジョン・ケージのプリペアド・ピアノより『瞑想への前奏曲』『・・・思い出せない記憶』、ヘンリー・パーセルの『恋人たちよ、寄り添って』、そしてボードレールの詩集『悪の華』から「恋人たちの死」が朗読あり、J.S.バッハの『主イエス、キリストよ、われ汝を呼ぶ』が使われている。和の紺を思わせる色が裾にいくほど薄くなっていく袴のようなのスカートをレオタードの上に着け、熊川哲也と中村恩恵がデュオで踊った。
正確でクリアな跳躍や回転、無駄のない抑制された動きが、愛のロマネスクを象徴的に描き出す。まるでダンスの達人が二人、相見えて踊っているような、集中力と緊張感を漂わせた舞台だった。
(2010年7月31日 赤坂ACTシアター)

撮影:小川峻毅
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