1977年に初演されたピナ・バウシュの『私と踊って』は、愛を求める一組の男女が、他のカップルの様々な形の愛のヴァリエーションとともに、激しい葛藤を繰り返していく。登場人物はリュートの調べに合わせて古いドイツの歌を口ずさみながら踊った。
冒頭は、舞台中央が遮断され一ヵ所だけ小さなドアの大きさの空間が空いている。サングラスを着けた白いスーツの男がカウチに寝て、ドアの向こう側のさんざめきを眺めている。遮断が外されると「雪に覆われた丘を想わせる白い急斜面」が背景全体に広がる。「床には白樺の枝、さらに根に土のついた白樺の木」が見える。自然に晒された寂しい情景の中、ダンサーたちはあたかも人生の営為のように、その急斜面を駆け登ったち滑り落たりしている。
カウチの男が一人の女性に話かける、「どこかで会ったことはない?」「ぼくたちは知り合いじゃない?」。やがて女性は恋におちるが、男は簡単にその愛を信じない。厳しい暴力的な詮索の果て、女性は開き直り反撃、猛烈に太って男を攻め立てる・・・・。
男性が白樺の枝を床にびしびし叩き付けて女性を執拗に追いまわすシーンなど、時に凄絶、時に優しく、時に残酷な愛と断絶の輪舞がいく重にも繰り広げられる。黒いハットと長いマントを着けた男性のコール・ドが、華やかな色彩のドレスの女性たちを支配しているかのようにも見える。男性と女性・・・人間の有り様に対するある種の説得力が感じられる。
ずるずる床を引きずられながら歌い続ける女、リフトされてポーズのまま歌い続ける女、歌いながら盲目のように壁づたいに歩き続ける女、ハットを紐の先に付けて舞台や客席を徘徊する男・・・。それぞれがスライスされた愛の形でもあるかのような、コード化された表現だが、フォークソングが歌われ、愛のリリカルな面と暴力的な心の闇がコントラストをみせ、自ずと現実の切実さを浮かび上がっている。
昨年、ピナ・バウシュが亡くなってから始めての日本公演は、終始、舞台に流れ続けていた「カム! 私と踊って」という叫びが、観客の胸から心へそして魂へとじわりと沁み入る作品だった。
(2010年6月11日 新宿文化センター 大ホール)
(C)A・I 撮影:飯島直人 / 高橋忠志
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