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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2010.04.12]

消えていく命の不条理を描いたカフカの『変身』の舞台化

Steven BERKOFF Metamorphosis
スティーブン・バーコフ『変身』
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フランツ・カフカ原作の『変身』をスティーブン・バーコフが舞台化したのは1969年で、バーコフ自身がグレゴール・ザムザを演じている。その後は英国、フランス、アメリカなどでプロダクションを変えながら上演されてきた。88年パリでは映画監督のロマン・ポランスキー、89年ニュ-ヨークではダンサーのミハイル・バリシニコフがグレゴール役を演じて大いに話題となった。そして日本では92年に演出家の宮本亜門が演じ、今回の2度目の上演では森山未来がグレゴール役を演じている。
原作『変身』は、「ある朝、不安な夢から目覚めると、グレゴール・ザムザは自分がベッドの中で大きな虫になっているのに気がついた」で始まるフランツ・カフカの有名な小説。1915年にが発表されたが、今日でも「21世紀の小説」と評価が高い。
舞台化したスティーブン・バーコフは、英国出身の俳優、劇作家、演出家で、スタンリー・キュブリック監督作品や『007オクトパシー』『ランボー怒りの脱出』などの映画で強烈な悪役を演じている。

バーコフはこの不条理劇を、分かり易く手際のいい演出で舞台化している。
ある朝、ザムザ一家の唯一の働き手として布地のセールスマンをして一生懸命働いていたグレゴールが虫に変身した、というユニークで大胆な発端から、父(永島敏行)と母(久世星佳)そして妹(穂のか)といった家族たちがその役割と存在の姿を露にしていく有り様は、まるで現実の家庭を見ているように説得力がある。家族や社会が一人の人間にとってどのようなものであるか、さらには人間が生きることについて深く考えさせられてしまう。
森山未来は銀弦のメガネをかけ、髪を昆虫の触覚のように固めて熱演。昆虫よりも数の少ない手足の関節を縦横に変化させて独特の動きを創り、デスコミュニケーションを鎧のように纏ったグレゴールを全身で表現した。演出の力にも助けられてこの不思議な役を見事に成功させている。変容して消えていく命の不条理を哀しみとともに描いた傑作というべきだろう。
(2010年3月6日 ル テアトル銀座)

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撮影:谷古宇正彦
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