ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2010.03.10]

オーケストラ演奏によるH・アール・カオスの魅力的な一夜

大島早紀子 構成・演出・振付『中国の不思議な役人』『瀕死の白鳥』『ボレロ』
H・アール・カオス×大友直人×東京シティフィル

H・アール・カオスと大友直人そして東京シティフィルの第3回目のコラボレーションコンサートが、05年、07年に引き続いて開催された。演し物は、ベラ・バルトーク音楽の改訂版『中国の不思議な役人』、カミーユ・サン=サーンス作曲の『動物の謝肉祭』より「白鳥」による『瀕死の白鳥』世界初演、モーリス・ラヴェル音楽の『ボレロ』。振付は大島早紀子、主演は白河直子、指揮は大友直人、演奏は東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団である。

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H・アール・カオスは、今日では数少なくなってしまった音楽とオーソドックスに向き合って振付ける舞踊家である。近年のコンテンポラリー・ダンスの多くは、ローザスのような音楽と深く関わるダンスを創る一部のグループを除いて、音楽を断片的にコラージュして作品を創っている。音楽の視覚化といった言葉も最近はほとんど聞えてはこない。クラシック・バレエの音楽さえも振付家の意思によって編成を変えるばかりでなく、新たな曲を加えているケースも多いと思われる。
作品の善し悪しといった判断は別にして、音楽家がひとつの作品として完成したものと振付家がダンサーを介して深い対話を交わす、あるいはダンサーの軌跡によってその曲想の根源を観客に感得させることは、コンテンポラリー・ダンスの大きな恵みのひとつだろう。

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H・アール・カオスの『中国の不思議な役人』を観ているとそういった感想が湧いてきた。
大島早紀子の振付は、パントマイム用に作曲されたというこの音楽を、ダンスの動きの中に溶解している。特にアンサンブルの動きの構成は、この曲の主題であるエロスと死のブラックユーモアをシルエットのように浮かび上がらせる。そして主役の白河直子の強靭さを秘めた動きとアンサンブルの一体的な動きの距離とリズムが絶妙で見事にバランスがとれている。それはちょうどオペラの主役の歌手とコーラスのような音楽的な調和をお互いの動きのバランスによって創っている。
バルトークはこの曲を1919年に作曲したが、なかなか上演機会に恵まれず、その後もさまざまに改編を加えてきたと言われる。大島早紀子と大友直人のコラボレーションによって、ほぼ1世紀後の日本の舞台に現れた『中国の不思議な役人』のヴァージョンをもし観ることができたら、あるいはひとつの帰結点を見いだしたかもしれない。
『瀕死の白鳥』は白河直子のソロ。短い演奏時間の前後に無音のダンスを創って、全体を構成している。何と言っても白河直子の見事な身体が創る美しい造型と、描線の魅惑的なロマネスクが圧巻だった。死の静寂を見せることによって、生命の姿を垣間見せたばかりでなく、死を描くことがすでに生きることの歓びを浮き彫りにするダンス、そういう印象を与えた舞台だった。
『ボレロ』は<赤のドラマ>、とでもいいたいほど強烈な赤で東京文化会館の広いステージを塗り尽くしたダンス。ゴッホの絵画の色彩にも優るとも劣らない分厚い赤の光の中に設えられた円環のバリアを巡って、白河直子と他のダンサーたちがせめぎあう。命のエネルギーが赤と言う色彩に変換され、『ボレロ』の独特のリズムを鼓動として姿を現した、まさに鮮烈な一曲だった。
(2010年1月30日 東京文化会館)

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撮影:松山悦子
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