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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2009.12.10]

コジョカル&コボーが洗練された演技を披露、東京バレエ団の若手ホープも実力を発揮

ワシリー・ワイノーネン振付『くるみ割り人形』
東京バレエ団

このところベジャール版の『くるみ割り人形』を取り上げることが多かった東京バレエ団が、久々にワイノーネン版の『くるみ割り人形』を上演した。この版の特徴は、大人のバレリーナが少女クララも王子とのグラン・パ・ド・ドゥも踊ること。今回はクララ役にアリーナ・コジョカルが、くるみ割り王子には当初予定されていたスティーヴン・マックレーに代わりヨハン・コボーが招かれた。この英国ロイヤル・バレエ団の人気のペアと並行して、明日を担うホープを主役に抜擢する“マイ・キャスト・シリーズ”の第1回として、佐伯知香と松下裕次のペアが出演する公演も行われた。その両方を同じ日の昼と夜に観た。
 

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まず、ゲストを迎えた夜の公演。コジョカルは日本人ダンサーたちに溶け込み、はしゃいだり、甘えたり、おびえたりする、愛くるしいクララを自然体で演じた。動きの一つ一つは磨き抜かれており、見事な回転技をさりげなく織り込んでしまうなど、並々ならぬ技量をうかがわせた。けれど彼女の本領が発揮されたのは、くるみ割り王子のコボーが登場してからだった。雪の国では音楽にのって流麗なデュオを披露し、ふしぎの国でのグラン・パ・ド・ドゥでは、まさに少女から王女に変身し、ロイヤル・バレエ仕込みの格調の高さで魅了した。ただ今回は全幕バレエの中での演技なので、〈世界バレエフェスティバル〉でのように、これ見よがしに超絶技巧を披歴したりはせず、節度を保っていたのも好ましい。幕切れ、目を覚ましたクララが、夢の余韻に浸りながら、いとおしそうにくるみ割り人形を抱き締める姿も印象的だった。
コボーも素晴らしかった。人形から王子になったことを確かめるように、そっと自分の体を触ってみるといった演技も細やかで、危機から救ってくれたクララを守りエスコートする、気品のある王子を演じた。マネージュやアントルシャ、回転技では、しなやかな身体性がはじけた。うやうやしくコジョカルをリフトし、胸に飛び込んでくるのを抱きとめるなどサポートも巧みで、二人の息がピッタリ合っていることが見てとれた。
 

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若手の佐伯と松下はマチネに出演した。佐伯は柔軟な身体の持ち主で、脚もなめらかに上がり、跳躍力も確か。クララの心の動きを丁寧になぞり、一つ一つの振りを端正にこなしており、好感が持てた。初めて王子役に臨んだ松下は、演技に硬さはあったものの、踊りは揺らぐことなく、常に安定していて、持ち前のジャンプ力や卓越した回転技が冴えた。この二人が英国ロイヤル・バレエ団のスターから学ぶことは多そうだが、“マイ・キャスト・シリーズ” の初回を飾るにふさわしい満足できる出来栄えで、次代を担う実力派と実感させた。この “マイ・キャスト・シリーズ” は、若手に主演の機会を与え、バレエ・ファンには低めの料金で優れた公演を提供するという。とても意義のある企画だと思う。
公演全体をながめれば、まず冒頭、人々がクリスマス・パーティーに向かう描写で、少女や婦人たちのパ・ド・ブーレが、あたかもおしゃべりを交わしているようで、パーティーの楽しさを予感させた。人形師ドロッセルマイヤーには力強いジャンプと芝居がかった演技が要求されるが、マチネで演じた木村和夫は切れ味鋭いジャンプが際立ち、ソワレでは後藤晴雄のおどけた仕草が生きていた。第2幕の「スペイン」の踊りでは、木村はソワレで乾友子と、後藤はマチネで奈良春夏と、それぞれ組んで競演した。第1幕でピエロなどの人形を踊ったダンサーたちや、第2幕で他の民族舞踊を披露した男女のペアも、粒ぞろいだった。昼・夜両方で「アラビア」を踊った西村真由美の体のしなやかさや、同じく昼・夜「ロシア」を踊った田中結子と小笠原亮の小気味よいジャンプや回転など、見所は多かったが、とても全部は触れられない。第1幕の雪の精の群舞も美しく、総じてロシア・バレエの楽しさを堪能させた舞台だった。
(2009年11月21日昼・夜、東京文化会館)

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photo:Kiyonori Hasegawa
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