ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2009.12.10]
マリインスキー・バレエ団が、今、盛んに来日公演を行っている。今年もまたロシア・バレエの精髄に触れて、芸術的な栄養分をたっぷりと吸い込んだ。このエネルギーを毛細血管によって身体の隅々にまで行き渡らせようと思う。来年の10月には、ボリショイ・バレエ VS マリインスキー・バレエの2回目の公演が行われることになった。毎年毎年、優れたロシア・バレエの舞台と出会えることは、じつに幸せなことである。

伊藤友季子と逸見智彦が踊った三谷恭三版『白鳥の湖』

三谷恭三:演出・振付『白鳥の湖』
牧阿佐美バレエ団
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牧阿佐美バレエ団がテリー・ウエストモーランドの振付を三谷恭三が改訂し、美術も一部を新たに作り直して『白鳥の湖』を上演した。牧阿佐美バレエ団のウエストモーランド版『白鳥の湖』は1980年に初演され、三谷自身がジークフリードを踊っている。その後、度々再演されてきたが既に30年近くの歳月を経ているので改訂されることとなった。
周知のようにウエストモーランド版は、マリインスキー劇場で継承されていた原典のプティパ、イワノフ版のステパノフ式舞踊譜を基礎として演出・振付けられた、1895年初演のサドラーズ・ウエルズ・バレエ団のヴァージョンに基づいている。その後ロシアでは独自に改訂されてきたので、このヴァージョンは、現在のロシアで広く上演されている版とも異なっている。

三谷恭三版の『白鳥の湖』も、道化や王子の友人のベンノなどは登場させずに第1幕を演出している。王子の友人はグループで登場し、その中からパ・ド・トロワ(吉岡まな美、笠井裕子、菊地研)が踊られる。
王子、王妃、家庭教師、友人たち、村人たちだけが登場し、王子の青春への決別といった感傷的な情感もあっさりとまとめ、第1幕は全体に演劇的な表現を抑え、すっきりと簡素な構成にまとめている。観客にチャイコフスキーの曲をじっくりと聴かせ、悲劇のプロローグ的な雰囲気を音楽的に高める優れた演出と言えよう。

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第2幕はいうまでもなくオデットの見せ場。伊藤友季子は繊細に気品を漂わせ、たおやかに踊った。特にアームスは優しく濃やかに白鳥の美しいイメージを舞台に描いた。ただ敢えていうと、少し弱々しさを感じてしまうのが残念だった。悲しみの向こう側に命の脈動を感じるからこそ、悲劇はいっそう悲しくなるのではないだろうか。
ジークフリード王子を踊った逸見智彦は、もちろん、日本を代表するダンスールノーブルで、踊りもケレン味なくさわやか。伊藤友季子とのペアリングは舞台映えがして、素晴らしい絵になる。しかし、たとえば第4幕の自ら誓いを破ったためにオデットの愛を死に至らしめた登場人物としては、もう少し厳しく責め苛む表現があってもいいのではなないか、などと思う。
できることなら、この美男美女が優れたパートナーシップを創って、21世紀最高の『白鳥の湖』を創ってもらいたい。そのためにももう一歩踏み込んだ表現によって、観客も共演者も引っ張っていってもらいたいものだ。
第3幕では今勇也、清瀧千晴、坂本春香、米澤真弓が踊ったパ・ド・カトルが若々しく意気が良かった。そしてやはり、ルースカヤ(田中祐子)が華やかで豪華。ロシアらしい雰囲気がこの作品をいっそう盛り上げていた。
(2009年10月24日昼 ゆぽうとホール)

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撮影:山廣康夫
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