ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2009.11.10]

黒田育世がドキュメンタリーを採り入れて新境地を提示

黒田育世:演出・振付『矢印と鎖』
ダンストリエンナーレ トーキョー2009
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挑発的な演出や過激なパフォーマンスで知られる黒田育世がドキュメン タリーの要素やテキストを初めて採り入れた新作『矢印と鎖』は、やはり異彩を放っていた。世界のコンテンポラリーダンスを紹介する〈ダンストリエンナーレ トーキョー2009〉での上演だったが、今年 5月に〈福岡演劇フェスティバル〉で初演したもの。作品の狙いは、時間という矢印に刻まれた各人各様の「これまで」と「これから」を溶かして一つの状況に化すこと、といってよいのだろうか。鎖は矢印に絡むもので、矢印同士を繋ぐものでもある。

『矢印と鎖』の特色は語りを多用したこと。だからか、5人の出演者のうち純粋のダンサーは黒田と彼女が主宰するBATIKのメンバー1人だけ
で、ほかの男性2人と小柄な女性1人は俳優という構成だった。もちろん俳優とはいえ動きは敏捷で、身体表現に優れていた。
幕前で、黒鳥のようなチュチュを着た黒田が、力一杯ドンと音をたてて踏み台のような低い椅子に片足を置く動作を繰り返すと、異次元の世界が開けてくるようだった。幕が開き、踊りが始まり、やがて出演者たちはそれぞれの思い出や個人的な感慨を語りだす。大スクリーンには子供時代の姿や語りに関連した映像などが映し出されレトロな雰囲気を醸してもいた。
物語られたのは、真っ暗な部屋の電気をつけようとしたらコードに鳥がぶら下がっていたこととか、母親がアルコール依存症だったこととか、楽しい追憶とはおよそ程遠いもの。そうした体験談がステージで共有され、エピソードを採り入れたパフォーマンスへと転換されていく。そんな中で、小柄な女性が小さい時に手術を受け、今も体に金属が入っているという話を聞いた時、幕開けで彼女が黒田と踊ったデュオの、体と体で会話を交わすような迫力は、辛い体験に裏打ちされたものだったのかと感慨を新たにした。
暗転でもう終わりかと思わせた後、抑えた照明の中で、5人は次々に衣裳を脱いで下着だけになり、筋肉の動きも露わに踊り回った。衣裳を個々人の人生の蓄積とみるなら、それを捨て去ったことで個という輪郭が薄らぎ、過去と繋がるしがらみからも解き放たように見えた。踊りでは全体を通じ、クラシックバレエの振りも見せながら、弾けたように激しく踊った黒田の強烈な個性が、やはり際立っていた。
(2009年9月30日 青山円形劇場)

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(C) Dance Triennale Tokyo 2009 photo: Yohichi Tukada
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