ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2009.08.10]

世界バレエフェス全幕『ドン・キホーテ』 コチェトコワとシムキンの若さ弾ける

第12回世界バレエフェスティバル 全幕特別プロ
ウラジーミル・ワシーリエフ『ドン・キホーテ』
東京バレエ団
tokyo0908f01.jpg

第12回世界バレエフェスティバルが、全幕特別プロの『ドン・キホーテ』で開幕した。主演は、サンフランシスコ・バレエのマリア・コチェトコワとアメリカン・バレエ・シアターのダニール・シムキンという旬のダンサー。二人は、はちきれんばかりのエネルギー、瑞々しい演技、そして何より抜群のテクニックで、終始、舞台を牽引した。

東京バレエ団の『ドン・キホーテ』は、ワシーリエフの演出・振付による密度の濃い2幕構成。キトリは、恋人のバジルがドン・キホーテのひげを剃り終えるの待ち切れずにイタズラしてしまうが、その時、ドン・キホーテは鏡に映った彼女の姿を見て、彼女に愛を告白するという導入部がユニークだ。

コチェトコワとシムキンは二人とも小柄で、東京バレエ団のダンサーたちにすんなり溶け込んでいた。ただ、初手合わせなのか、最初のうちは、それぞれが自分のパートを演じているといった硬さが感じられた。場面が進むにつれ息遣いも合い、恐らくシムキンの巧みなリードのおかげだろう、熱いデュオが展開された。二人の経歴をみると、コチェトコワはボリショイ・バレエ学校出身で、シムキンはロシアのバレエ一家の生まれ。共にロシア・バレエがベースということも、影響しているのかも知れない。

コチェトコワは、顔が小さく、バランスのよい身体の持ち主。町の広場で、まず爽快なジャンプ力を披露した。イタズラなキトリではあったが、彼女の雰囲気なのか、可愛らしさが先に立ってしまう。だが、広場での闊達さと〈夢の場〉での格調高さとを、鮮やかに踊り分けた。グラン・パ・ド・ドゥでは片脚バランスで長く保ち、フェッテでは、前半はダブルの連続で、その後もダブルを織り交ぜ、ブレることなく踊り納めた。

tokyo0908f02.jpg

シムキンは、いかにも爽やかな青年という感じ。あちこちでチョッカイを出し、おどけてみせるなど、茶目っけのあるバジルの役作りだった。コチェトコワを片手で高々とリフトするなど、サポートも良かったが、やはり跳躍と回転技が際立っていた。高いジャンプに小技を利かせ、シャープに、また滑らかに回転し続けるなど、余裕の演技だった。

東京バレエ団のダンサーたちは、主役の二人にあおられたようで、特に群舞が賑やかに活気づいていた。中でも、ジプシーの勇ましい男性群舞は見応えがあった。女性では、若いジプシーの娘を踊った吉岡美佳が、奔放さや悲哀など、様々な情感を滲ませて秀逸だった。メルセデスの奈良春夏と、ドリアードの女王の田中結子は、手堅い踊り。ほかに、キューピッドの高村順子の、愛らしく、滑らかな踊りが印象に残った。

男性では、エスパーダの後藤晴雄が、群舞の闘牛士たちを従えて健闘した。これで勇壮さが更に加わればと思う。ガマーシュの平野玲は、中央での芝居だけでなく、随所で細やかな演技を見せて舞台の隙を埋めていたし、サンチョ・パンサの高橋竜太は滑稽な役回りを演じつつ、物語の進行役も務めていた。なお、当夜は、フェスティバルに参加するため来日したダンサーたちが客席で鑑賞していたこともあり、会場は熱気であふれていた。
(2009年7月29日 東京文化会館)