ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2008.10.10]

新国立劇場の「DANCE EXHIBITION 2008」

 新国立劇場のコンテンポラリー・ダンス公演「DANCE EXHIBITION 2008」のA・B二つのプログラムを観ることができた。

 Aプロの開幕は、ロンドンのバービカン・センターやパリのポンピドー・センターなど海外のフェスティバルに招聘されることも多い、梅田宏明のソロ。昨年、パリのシャイヨー宮劇場で発表したS20『Accumulated Layout(蓄積された配置)』という作品だった。
舞台中央の大きな長方形の照明の中で、最初は手、次に肘、続いて肩、そして上半身、という具合に、ステップをまったく使わずに、小さな関節から次第に大 きな関節へと動きを発展させていく動きによって踊り始める。関節の曲展を強調してリズムをとっていく踊りだった。

 Aプロ-2は、二見一幸 ダンスカンパニー カレイドスコープによる『”形が””人が”語り始めると』
背景とフロア全面に、複雑なブロック崩しのように正方形や丸などの図形が移動しつづける映像を映す。図形は抽象的な模様になったり、幾何学模様や未来イメージ的になったり様々に変化する。
ダンサーは女性が7人、男性が3人。移動変化する映像の中で、比較的ゆっくりとして動きで、女性らしい雰囲気のあるムーヴメントが展開された。特に、ラストの女性の踊りが良かった。
ダンスのムーヴメントやフォーメーションと無関係に変幻する映像の混交が、なかなか効果的な舞台だった。

 続いて、Co.山田うんの『カッコウ』
舞台にはピアノが一台。演奏するピアニスト、クリヤ・マコトにスポットが当たり、暗闇の中から、足を背中に背負われ頭を下にした山田うんがゆっくりと登 場する。ピアノのソロとともに、山田うん、尾形直子、小沢剛もソロを踊る。子供が隣の部屋で演奏されているピアノを聴きながら夢想をめぐらせるようなソロ だった。
山田独特の脱力した素早い小さな動きを組み合わせて、日常的な動作もあまりそれとは感じさせずに採りいれられていて親しみやすい感じ。ユーモラスなポーズや活き活きとした動きのエスプリが観客を楽しませてくれる。
ピアノ演奏も素晴らしく、変化とテンポとメロディが融合して素敵な宇宙を創った。山田の細やかな振付のダンスとピアノがリラックスしていながら、美的に一致していてたいへん感心した。
遊びに飽きた子供が、スッと帰ってしまうような舞台の捌け方も良かった。動き、音楽、センスがじつにバランスがいい印象に残る舞台だった。
(2008年9月6日、新国立劇場 小劇場)

 Bプロは、近年はベルリンで活動している川口ゆいの『REM ー The Black Cat』。「エドガー・アラン・ポーの短編小説『黒猫』をモティーフにしたソロメディアパフォーマンス」と紹介されている。もちろん『黒猫』のストーリーを描いているわけではない。黒猫をめぐって、処刑された男と殺された妻の魂が浮遊する空間を表した作品。
川口ゆい自身が、黒猫と殺害された妻、処刑された男の魂をソロで踊り分ける。死んだ人間の魂と黒猫が戯れ合う幻想シーンを、ダンサーの上衣に映像を映すなど映像や照明などを駆使して描いている。
タイトルに付されたREMは、レム睡眠の時に現れる、急速眼球運動のことだろうか。だとすると、『黒猫』の登場人物だった死者の目蓋に映った光景なのか、と思ったりもした。

 Bプロー2は、一転して加賀谷香の『パレードの馬』
まず、馬が表している生命の輝き、躍動感を加賀谷自身が踊って素晴らしいムーヴメント。美しいダンスだった。
初めは荒々しさ、あらがう猛々しさが命のエネルギーを発露するように輝く。パレードの馬に、パレードにではなく馬の生命に感動して振付けられたダンスと 思えた。しかし、太田恵資が天幕の円形ネットの外を巡りながら奏でる見事なヴァイオリンが、馬の命と共鳴して、次第に流れるように美しい動きが現れてく る。音楽と身体の卓越した融合を見た気がした。やはり「パレードの馬」の美が描かれていた。
そしてラスト・シーンでは、照明を一度落として再び明るくなると、円形のネットは舞台の正面だけとなり、ヴァイオリン弾きと馬は、同じ空間の中で完全に一体となって踊っていた。
音楽と生命が鮮やかに共鳴するじつに素敵なダンスを観た。

 Bプロ最後の作品は、上島雪夫のUESHIMA theater『Flush(ほとばしる)~生き急ぐ時間たち~』
舞台下手に赤い布を掛けたソファが一脚、その天には雲のような抽象的なオブジェが浮かぶ。中央の天からは傘付きのみすぼらし電球が吊るされていて、上手 の天には緞帳のようなカーテンの一部が設えられ、手前にメタリックな冊のようなオブジェ。ごく普通の生活の場と劇場が混合して接着されたようなセットだっ た。
上島の日常的な表情のダンスの最中に、瞬間的に激しい音楽が流れ照明が明滅する。すると、上島と同じ白いシャツと黒いパンツの人物が、突然、部屋のそこここに居る。そのまるで上島の分身のような人物たちが踊り出す。
ダンスの精のような素晴らしいプロポーションの女性ダンサーが登場したり、幻想の中で様々なダンスシーンが次々と展開した。
日常の一瞬の断裂の中に生まれた幻想を、ヴァリエーション豊かなダンスで見せたなかなか見応えのある舞台だった。
(2008年9月14日、新国立劇場 小劇場)