ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2008.08.11]

Noism08 Physical Theater 『Nameless Hands~人形の家』

  新潟市を本拠地とする、りゅーとぴあレジデンシャル・ダンス・カンパニーNoismは、平成25年8月まで活動をさらに3年間延長しすることが決定した。 次回公演も海外用にヴァージョンアップした『NINA----物質化する生け贄』の「ver. black」を凱旋公演することになった、という。公共の舞踊活動に行き詰まりがみられる中で、誠に喜ばしいこと、嬉しいニュースである。
今回公演は、『sense-datum』以来2年ぶりとなるスタジオ公演の『Nameless Hands~人形の家』。
舞台上手手前に大きな額縁が置かれ、見世物小屋の支配人、宮河愛一郎が一心不乱に木型の人形を動かしているが、良き時を見計らって口上。舞台は暗黒になり、そここに白い仮面のような顔が浮かび、また消える。
人間は支配人の宮河愛一郎、人形は女の井関佐和子、男の青木尚哉、彼の山田勇気、彼女の中野綾子、老婆の藤井泉、黒子は原田みのる、青木枝美、櫛田祥光、人間/人形/黒子のみゆきは高原伸子が演じ、踊った。
第1幕「人形の家」。黒子と人形が登場し、人間の宮河が主体性を持たない人形と関係を作ろうと試み、黒子や人間のみゆきなどと絡む。とりわけ、人形と黒 子のダンスが非常に綿密に創られている。人形の無力感と黒子の支配が微妙に作用し、直接的なアクションから受ける印象とはまた異なった、じつに不思議な感 覚の表現が現れ、観客の関心を惹き付ける。主体を失った人形を表情を圧殺した黒子が動かすことによって露になる情感は、曰く言い難く、敢えていうなら<文 楽のダンス>とでも呼びたくなった。
第1幕では、人形と黒子と人間がその関係が入れ変えるなどしながら、個人的にクローズアップされて描かれた。

 第2幕「Nameless Hands」では、社会的視点からみた人形と黒子というものが描かれていく。そしてそこに犠牲=生け贄、というものが生まれてくる状況が、次第に明らかになってくる。
第1幕の終りには、ジョルジュ・ドンが踊ったことで知られるベジャールの「兵士の踊り」、第2幕には傑作『春の祭典』を彷彿させるシーンが観られた。金森穣が昨年11月22日にスイスのローザンヌで亡くなった師・モーリス・ベジャールに捧げるオマージュである。
そしてその『春の祭典』の犠牲が、第2幕のクライマックスで鮮烈な赤い血を浴びて凄絶なダンスを踊る。それはまた、第1幕で登場した女の衣裳の赤、「カルメン」の曲が流れたシーンに現れたスカーフの赤、とも通底する色であった。
60年代70年代に風靡したアングラ演劇風の表現を活用して観客を魅了し、金森が模索し続けてきた、現代の身体性のひとつのアングルを明らかにすることに成功した舞台だった。
(2008年7月4日、シアタートラム)