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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2008.04.10]

伝統を継承する牧阿佐美バレヱ団のウエストモーランド版『白鳥の湖』

伊藤、京當
 良く知られるようにチャイコフスキーの『白鳥の湖』は、モスクワのボリショイ劇場で初演され、後にプティパ、イワノフの振付による歴史的な決定版が制作 された。しかしロシア・バレエは、ロマノフ王朝から革命による共産主義政権への急激な変化による影響を免れることはできなかった。
『白鳥の湖』のプティパ、イワノフ版もそうした事情により、初演した振付家の趣旨を省みること無く、<時代の要請>といったような曖昧な大義名分から改変されてきた。
ロンドンには、ロシア革命を逃れて亡命してきたニコライ・セルゲイエフにより、古典名作バレエのステパノフ式舞踊譜が伝えられた。牧阿佐美バレエ団のテ リー・ウエストモーランド版の『白鳥の湖』は、このヴァージョンつまり、プティパ、イワノフ版のオリジナルを基礎として振付けられている。
そしてウエストモーランドは、偉大な古典バレエの中の「マイム場面は、バレエ史の本質的な部分ともいえるものとみなしており(たびたびみられるように)意味のない振付にとってかえられるべきでなく、保存されるべきだ」とも語っている。

第1幕では、花を絡ませた椅子を置くなど、花を小道具として使って、ジークフリート王子の誕生日を祝う野外パーティの雰囲気を演出している。また、ジークフリートの王子らしい凛々しい気品を、王子に敬意を表す踊りなどで際出させる工夫を凝らしている。
老いた家庭教師のいささか愚鈍な姿は、若さあふれる王子とコントラストをなしているが、じつは王子の将来への漠然とした不安も映してもいる。
このヴァージョンの古風な印象の演出には、こうした伝統の芳醇な味わいが籠められていることに注目したい。

オデット/オディールは伊藤友季子、ジークフリートは京當侑一籠という前回の再演と同じキャスト。京當は堂々たるプロポーションで見事な王子ぶりだが、 踊りは少し堅苦しい感じがしてしまうので、もう少しのびのびとした印象が欲しいと思った。伊藤は、いっそうスリムになり非の打ち所のない舞台姿だが、前半 は悲劇を際立たせるエネルギーがやや弱いとも思った。ところが、それは抑えた表現だったのか、第4幕で初めて強い悲劇性を訴える踊りをみせて、作品全体を リードしてじつに感動的なものに導いた。良く計算された見事な演技だったと思う。
ほかにパ・ド・トロワを踊ったラグワスレン・オトゴンニャムが良かった。また、第3幕冒頭のパ・ド・カトルを踊った清瀧千晴と中島哲也も、活気に満ちた清新な踊りで喝采を浴びていた。
(3月8日、ゆうぽうとホール)

第2幕青山、逸見