ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2008.03.10]

谷桃子バレエ団のメッセレル振付、望月則彦再演出『ラ・バヤデール』

1981年に日本で初演されたスラミフ・メッセレル振付・演出『ラ・バヤデール』を望月則彦が再演出したヴァージョンが、2006年に続いて再演された。
良く知られるように『ラ・バヤデール』は、1877年にプティパにより初演された5幕7場の超大作バレエ。その後、様々に改訂されてきたが、概ね、最後 の神殿が崩れ落ちるシーンを削除するかどうか、がポイントとなっている。メッセレルのヴァージョンは、ゴルスキー版に基づくということだが、3幕の幻影の 場で幕を下ろしている。

その幻影の場の演出はじつに素晴らしい。遥か雪を頂くヒマラヤの山並みを背景に、純白のチュチュを纏った精霊がシンプルなアラベスク・パンシェを繰り返しつつ降りてくる情景は、霊界を示唆する宇宙的な感覚を鮮やかに表している。
打ちひしがれてアヘンを吸ったソロルは、幻覚の中に、愛していながら見殺しにしたニキヤの精霊と踊り、自ら精霊たちに加わる、という終幕になっている。
ソロルは斎藤拓が扮していたが、感情を胸にたたみこんだ端正な踊りを見せた。
ニキヤの佐々木和葉は、終始落ち着いた踊りで明快に気持ちを表し、清潔感を感じさせるいい踊り。谷桃子バレエ団のコンビらしい息のあったパートナーシップが、観ていて気持ちのいい舞台を作っていた。

4幕構成の場合は、神殿で執り行われるソロルとガムザッティの結婚式に、再びニキヤの霊が現れ、天罰によって神殿が崩れ落ち、神の刻印が示されて幕が降りる。
ニキヤの霊が二回も現れるという4幕構成は物語の展開上、いささか難がある。ただ、苦悩したソロルがニキヤの霊に救われるという3幕構成も、大作のエンディングとしては物足りない気がする。
金の仏像の踊りも、神の視線を感じさせる伏線とするか、ニキヤの心理的な影像とみるか、それぞれのヴァージョンによって捉え方が変わってくるかもしれない。
インドを舞台に、フランス人のプティパがロシアのバレエ団で創ったバレエを、インドの文化に影響を受けて独自の文化を育んだ日本のバレエ団が上演した。 バレエ芸術自体が西欧文化が創ったものであり、それを受容し、こうした大作を上演するということは、様々の努力と軋轢が生じただろう、と容易に推測でき る。
そしてまたそこに、多様な解釈を可能にする、古典名作バレエの懐の深さがある。
(2月8日、東京文化会館)

朝枝めぐみ、齊藤拓佐々木和葉、齊藤拓
永橋あゆみ、今井智也樋口みのり、赤城圭