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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2007.08.10]

新国立劇場バレエ団の『ドン・キホーテ』

スヴェトラーナ・ザハロワ、アンドレイ・ウヴァーロフ
 新国立劇場バレエ団もスヴェトラーナ・ザハロワとアンドレイ・ウヴァーロフというボリショイ・バレエ団の二人のプリンシパル・ダンサーをゲストに招いて、『ドン・キホーテ』を上演した。
周知のように『ドン・キホーテ』は、1869年にモスクワのボリショイ劇場でプティパの振付により初演され人気を博した。さらに1871年にはプティパ 自身の改訂により、ペテルブルクでも上演された。以後このバレエは、ゴールスキーなどの改訂を経て、複雑な歴史を辿ることになるが、ボリショイ劇場でもマ リインスキー劇場でもレパートリーとして残り、今日まで上演され続けている。
新国立劇場の『ドン・キホーテ』は、アレクセイ・ファジェーチェフがプティパ作品のオリジナリティを尊重しゴールスキー版も含めて、改訂振付を施した舞 台である。新国立劇場では、1999年にこのファジェーチェフ版を初演している。たしか初演の際には、ドン・キホーテの愛馬ロシナンテ役の本物の馬が舞台 に登場して、話題を集めたと記憶している。
このファジェーチェフ版には、台本としてもプティパの名前がクレジットされているので、おそらく最もオーソドックスなテキストが使用されていると思われ る。プロローグ、第1幕と第2幕1場までに、バジルが狂言自殺してキトリとの結婚が認められる。続く第2幕2場と3場で、ドン・キホーテは風車と闘い、気 絶して幻想の中の森のシーンでドルシネアと妖精たちに遭遇する。そして第3幕は助けられた侯爵の館で、キトリとバジルの結婚式が行われる、というストー リー展開である。
物語はよく整理されているが、バジル、キトリの恋愛騒動とドン・キホーテの騎士の高邁な理想の追究というふたつの流れから、浮かび上がってくるはずのバ レエのテーマはやや弱く感じられる。とにかくめでたしめでたし、であっても限りなく楽しいダンスがあれば、もちろん結構なのであはるが。
ザハロワはキトリをのびのびと踊り、旬のダンサーの美しさを開花させて華やか。少々教科書的な印象が無くはないが、素晴らしい舞台である。
思わず知らず、プリセツカヤやアナニアシヴィリの同じくらいの年齢の時のキトリと比べたらどうだろうか、などと思った。しかし、それはやはり野暮という もの、今、眼前に咲き誇る花の香りを味わうことが古典名作を鑑賞する正しい態度であろう。
ウヴァーロフのバジルも見事であはあるが、ホームのボリショイ劇場で踊る時はもっと鮮烈なのではないか、などというわずかながらも邪推を残す余地もあった。
それにしても新国立劇場のコール・ド・バレエは優秀である。海外のゲストアーティストと踊っても見事に調和し、しかも日本的な雰囲気を醸すことにも成功し ている。奥田慎也のサンチョ・パンサ、キューピットのさいとう美帆などのソリストも良かった。
(6月28日、新国立劇場 オペラ劇場)