ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関 口 紘一 text by Mieko Sasaki 
[2007.05.10]

ヤン・ロワ-ス&ニードカンパニー『イザベラの部屋』


 やはりベルギーから、音楽やダンスなどとともに舞台を創る演劇集団として注目を集める ヤン・ロワ-ス&ニードカンパニーが来日し、『イザベラの部屋』を上演した。『イザベラの部屋』は、2004年にアヴィニヨン・フェスティバルで初演され、各地で 130回以上も上演されてきた作品である。
 脚本はヤン・ロワ-スが、夥しい数のアフリカの民族的なオブジェや考古学のコレクションを残して亡くなった父の死に、インスピレーションを得て書いた。
 そうしたアフリカの様々なオブジェに囲まれて暮す盲目の老女イザベラの部屋で、 20世紀という時代を生きた彼女の生涯が、ダンスと音楽やナレーションを自在に使って描かれている。

 観客には、 1910年から 1995年のまでのイザベラの歴史を記した小さな紙が配られる。
 イザベラはアンナとアーサーの養女だが、父のアーサーはアンナが死ぬとアルコール依存症となり、 嘘だとか真実だとか叫んで錯乱する。やがてアーサーも死ぬと、イザベラ宛てに残された手紙があり、そこには、アーサーが アンナをレイプしてイザベラを身ごもるが、アンナは気絶していて知らない。アーサーとアンナは一緒に暮すようになって、 修道院に捨てられていたイザベラを養女としてひきとったが、つまりはじつの親子だったと出生の秘密が記されていた。
 そしてイザベラの孤独な生涯が、愛人のアレクサンダーや砂漠の王子、姉の「悪」(右脳)、妹の「喜び」(左脳)、 性感帯、死んだアンナやアーサー、語り手、はたまたヤン・ロワ-ス自身などが登場して、愛し合い、笑い、喜び、悲しみ、衝撃を受けるなど しながら描かれる。現実と空想の人物、感覚が擬人化された登場人物たちが、雑然としたイザベルの部屋から、原爆投下直後の広島、パリ、 アフリカを巡りながらストーリーが展開する。

 

 
 
 主として音楽とダンスあるいは大袈裟な身ぶりによって表現されていくが、 意外に混乱なく説得力を持って整合されている。いわゆる演技的な表現はほとんどなく、人生の皮肉やガルゲンフモールが 生み出すリズムや動きが、ユニークな舞台美術とコラージュされて、深い悲しみや孤独あるいは喜びを浮かび上がらせている。 20世紀の人間の存在の意味を問うひとつの試み、と言ってもいいのではないだろうか。
<死の舞踏>とタンツ・テアターを渾然としたような手法の舞台に見えたが、ヒエロニムス・ ボッシュやブリューゲルなどのフランドル芸術の伝統が舞台に現れたものなのかもしれない。
(4月 8日、彩の国さいたま芸術劇場 大ホール)