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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2007.04.10]

岡倉天心の未公演のオペラを題材にした『海狐』

  岡倉天心は、日本のみならず東洋の美術・文化を世界に知らしめた叡智の人である。明治維新の後、欧米に追いつけ追いこせと力みかえっていた世の中に、「ア ジアはひとつ」と唱え、日本、中国、インドの美術・文化を称揚して論陣を張り、一歩も引かなかった。しかし、早くに母を失ったからか、美しい女性への憧憬 が強く、死の床にあってもインドの美貌の詩人に熱い恋心を抱き続けていた。俗世を泳ぎ渡ることには聡くなく、毀誉褒貶にさらされた人でもあった。

「海狐~岡倉天心のこころ」

「海狐~岡倉天心のこころ」

岡倉は、『白狐』というオペラの台本を書いていたが上演されておらず、たいへん心残りに思っていた、と伝えられている。
『海狐』は、そこから物語を始める。外務省を辞めた青年が、天心が英語で書いたオペラ『白狐』を上演して大いに名を挙げようと活躍する。その過程で、岡倉 天心の人生を思わせるような恋愛模様が繰り広げられる。団員たちに岡倉の人生を紹介する場面と、オペラを制作していく様子を交互に描いていく。
重厚、荘重なイメージの岡倉天心の波瀾万丈の人生を、明るく楽しいショーにしてしまう才気には驚いた。横山大観、下山観山、菱田春草といった日本画の重 鎮たちが、天心オタクの親衛隊として描かれ、美しい女性を見ると前後を顧みずたちまち好きになってしまうという、人間・天心をじつに見事に活写している (作/野宮安寿、演出/ふじたあさや)。
岡倉が『白狐』の題材とした<信太の狐>の悲愁もさり気なく挿入されていて、終盤の白狐のアリアが歌われるシーンでは、思わず落涙してしまった。
ただ、第2部で演じられた『白狐』そのものはあまり感心できなかった。第1部で、岡倉天心という人物は充分に描かれていたし、オペラとして上演するのであれば、それなりの準備も必要だったのではないだろうか。些か残念な気持ちを抱いて劇場を離れた。  
(3月24日、関内ホール)