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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2007.01.10]

マリインスキー・バレエ団の来日公演 その1「三つのガラ公演」

明けましておめでとうございます。本年もワールドワイドなダンス、バレエの最速情報をお届けする『Dance Cube』をよろしくお願い申し上げます。
時が経つのが早い早い、と言っているうちに年が明けてしまいました。年が明ける時には必ず、「今年こそ」と秘かに小さな決意をします。昨年はどんなことを決めたか、思い出してみます。ああ、結局、読破できていません「谷崎源氏」。



 3年ぶりに、ロシア、サンクトペテルブルクのマリインスキー・バレエ団が、ウリヤーナ・ロパートキナ、ディアナ・ヴィシニョーワなどのスターダンサーと清新な若いダンサーたちを引き連れて来日し、4都市で15公演を開催した。
まずは、「ヴィシニョーワのすべて」「ロパートキナのすべて」「オールスター・ガラ」の三つのガラ公演が、華やかな雰囲気の中で行われた。

東京公演の初日を飾った「ヴィシニョーワのすべて」は、『シンデレラ』第2幕より(プロコフィエフ、ラトマンスキー)、『バヤデルカ』第2幕(ミンク ス、プティパ、改訂振付ポノマリョフ、チャブキアーニ)、『ルビー』(ストラヴィンスキー、バランシン)という一幕見で構成された。
『シンデレラ』は、ロシアではザハーロフ版、英国ではアシュトン版がよく知られているが、ラトマンスキーのヴァージョンは、衣裳、装置を斬新な現代感覚の ものにし、振付も日常的な動きを採り込むなどして刷新している。全体にプロコフィエフの音楽の新奇な雰囲気を尊重した演出になっている。戯画的に描いた曲 とロマンティックな情感の漂う曲が交錯するため、振付は細かく曲に応じ、ダンサーはパートナーとのタイミングをとることが難しそうにもみえたが、主演の二 人は輝くような踊りである。
ヴィシニョーワを想定して振付られたというだけあって、見事なバランス。イーゴリ・コールプは、王子を逞しく力強く安定した踊りであった。


『ダイヤモンド』
ウリヤーナ・ロパートキナ

『ダイヤモンド』
ウリヤーナ・ロパートキナ

『ダイヤモンド』
ロパートキナ、コルスンツェフ

『バヤデルカ』第2幕は、ニキヤがヴィシニョーワ、ガムザッティがヴィクトリア・テリョーシキナ、ソロルはレオ ニード・サラファーノフというキャスト。舞台上に居るだけでも、エキゾティックな世界を表す存在感を放つダンサーたちである。サラファーノフは苦悩する戦 士を身体全体で演じ、テリョーシキナは毅然として愛を貫く女性を明確に見せた。ヴィシニョーワは、踊りそのものの中に深い人間の悲しみを感じさせる舞台 だった。金の仏像を踊ったウラジーミル・シクリャローフの切れのいい爽やかな踊りが印象に残った。
『ルビー』には、ヴィシニョーワとともにアンドリアン・ファジェーエフが登場して、作品全体を引き締めた。ストラヴィンスキーの特徴ある曲を、ルビーの煌めきのように踊るダンサーとしての力量が必要な作品である。(11月29日)
「ロパートキナのすべて」は、『パキータ』グラン・パ(ミンクス、プティパ)で幕を開けた。ロパートキナと新国立劇場にもゲスト出演しているダニーラ・コ ルスンツェフが踊り、ソリストは、エカテリーナ・オスモールキナ、ダリア・パヴレンコ、テリョーシキナほか。ロパートキナのゆるぎないポーズと正確な動き が鮮やかである。

『ライモンダ』第3幕(グラズノーフ、プティパ、改訂セルゲーエフ)は、華やかさで心が浮き立つような作品。ロパートキナの軸がぶれないピルエットと正確 な型が、この舞台の美しさの基本である。そして、ロパートキナのプリマとしての余裕が、舞台空間の隅々までを支配して、彼女を中心に緊張感が客席に放射さ れる。ヴァリエーションはじつに見応えがあった。ジャン・ド・ブリエンヌ役のエフゲニー・イワンチェンコは堂々たる身体を披露したが、少々、重い感じがし た。
『ダイヤモンド』(チャイコフスキー、バランシン)は、宝石の王様としてのダイヤモンドの輝きを表すロパートキナの華麗な踊りが圧巻である。とりわけ、コルスンツェフと踊った、王者の風格を醸すゆったりとしたパ・ド・ドゥは素晴らしかった。(11月30日)



『ダイヤモンド』
ロパートキナ、コルスンツェフ


『ダイヤモンド』
ロパートキナ、コルスンツェフ


「オールスター・ガラ」は、『レベランス』(ブライアーズ、ドウソン)と『エチュード』(チェルニー、ランダー)という短編作品の間に、パ・ド・ドゥやアダージョ、小品を並べた構成である。
『レベランス』は3組のペアによるコンテンポラリー・ダンスで、振付は、オランダ国立バレエ団などに振付を提供しているディヴィッド・ドウソン。ルーベン スの絵のような厚い光を構成した背景の中で、神秘的な美しさを描いた。パヴレンコ、ソフィア・グーメロワほかのマリインスキー・バレエ団の引き締まったダ ンサーの動きが、作品の現代的なシャープな感覚をいっそう際立たせた。
ほかにはコールプとダリア・スホルーコワが踊った『ばらの精』(ウェーバー、フォーキン)が、一瞬の幻想をダンスの流れの中に浮き上がらせて良かった。 ジュリエットがロミオの胸に正座して乗る有名なシーンがある『ロミオとジュリエット』(プロコフィエフ、ラヴロフスキー)は、イリーナ・ゴールプとシク リャローフが魅せた。シクリャローフの水の中の魚のような流麗な若々しい動きの流れが見事だった。『グラン・パ・クラシック』(オーベール、グゾフス キー)では、テリョーシキナとサラファーノフが離れ技の競い合いを展開。当初はヴィシニョーワが『瀕死の白鳥』を踊ることになっていたが、変更になった 『眠れる森の美女』第1幕アダージョ(チャイコフスキー、プティパ、改訂コンスタンチン・セルゲーエフ)。小柄ながら豪華さを感じさせヴィシニョーワの堂 々たる光り輝くアダージョだった。


  ロパートキナはコールプと『パヴロワとチェケッティ』(チャイコフスキー、ノイマイヤー)を踊った。チェケッティの舞踊理念を尊敬するパヴロワとパヴロワ の完璧な美を崇めるチェケッティ。二人の心が深く通じ合うところを、バレエのクラスの中に現れる心理の微妙な襞よって描きだす。優れた演劇的バレエであ る。オレシア・ノーヴィコワとファジェーエフは『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』を伸びやかに踊った。

最後はハロルド・ランダーの『エチュード』。前半はバーレッスンをするダンサーたちを、様々な美しい形に展開してスポットを駆使して見せる。後半にはセ ンターの動きのレッスンを、ムーヴメントのラインにしてみせる。非常に常識的なルーティ-ンに様々の工夫を加えて、舞台作品に仕上げてみせたものである。 アリーナ・ソーモワ、サラファーノフ、シクリャローフの若手がソリストを主要な役を踊った。サラファーノフの高くスピードのあるピルエットが会場を大いに 沸かせた。彼は超絶技を見せるが筋肉隆々たるところを全く感じさせず、少し華奢な印象さえするダンサーだった。むろん、筋肉の質もいろいろあるのであ る。(12月4日)

『エチュード』


『エチュード』
ソーモワ、サラファーノフ、シクリャローフ

『エチュード』
ソーモワ、サラファーノフ、シクリャローフ

『エチュード』