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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2007.01.10]

勅使川原三郎『ガラスノ牙』 新国立劇場公演

 舞台手前と中央に長方形のガラスの破片をびっしりと敷き詰めたスペースが、下から照明を当てられて、月に照ら されたようににぶく光っている。その光は無限に乱反射して、暗黒の天井に、光りを刷毛で佩いた星雲のような模様が浮かんでいる。現実には目にすることのな い、宇宙空間のいずこか、あるいは物質を構成する原子のナノ空間をのぞいたような光景である。

 手前のガラスの破片を敷き詰めたスペースを、勅使川原がゆっくりと渡って新作『ガラスの牙』は始まった。
巨大な物体の崩壊を思わせる音が遠雷のように響く。黒い衣裳を纏ったダンサーたちが舞台を走り抜けるようなダンスが続いた。
2幕に入ると、透明の大きなガラス板を周囲に立て、中央で勅使川原が踊る。後方から、動いているのが分からないほど静かに、女性ダンサーが接近してくる。
透明な目に見えないものと弱い光と影で構成された世界。存在の感覚というものをヴィジュアルにした光景であり、これもまた美しいイメージである。

『ガラスノ牙』
 暗転すると、ガラスの破片を敷き詰めたスペースで勅使川原が激しく踊り、危険な緊張感が漲る。女性ダンサーは ガラスの破片と戯れている。そして二人は細い管をくわえていて、音声を発すると鮮烈な反響が劇場中に響き渡る。女の絶叫、男の絶叫。ともに意味のない、無 限を感じさせる音響だが、男の叫びには人間的な惚けたような笑いが含まれていた。
最後は勅使川原の見応えのあるソロ。



『ガラスノ牙』
  ガラスは目に見えないものの象徴で、その破片の無数の反射は時間の破片。ガラスは透明で目には見えないが、鋭く危険であり、光を映してさらに不可視の時間 の破片を積もらせ、有り得ない永遠を知らしめる。目に見えるものと見えないものが渾然となった存在の実感を鋭く突きつめたイメージが、見事に説得力をもっ て描かれていた。
(12月16日、新国立中劇場)