ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2006.11.10]

ルジマトフとインペリアル・ロシア・バレエの『シェヘラザード』

 かつてはボリショイ・バレエ団で英姿颯爽と踊っていた、ゲジミナス・タランダが芸術監督を務める、インペリアル・ロシア・バレエ団がファルフ・ルジマトフをゲストに迎えて日本公演を行った。
第1部の幕開けは、『カルミナ・ブラーナ』だった。カール・オルフの著名な音楽に、エストニアのバレエ団を率いる振付家マイヤ・ムルドマが振付けたも の。2005年にモスクワのノーヴァヤ・オペラで上演された作品だそうである。特別な構成をほどこさず、フラグメンツを重ねている。
一見、デューラーの銅版画のタッチを想わせる中世を象徴する数枚の抽象的背景画を使い、暗い太陽をにぶく照らし、若々しい男性と女性ダンサーたちが、明るく快活なダンスを繰り広げた。


  続いてルジマトフのソロ『アダージェット~ソネット~』。マーラーの交響曲第5番「アダージェット」を使い、ニキータ・ドルグーシンが振付けた作品であ る。ドルグーシンは、サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場の向かい側にある、コンセルヴァトワールのバレエ団の芸術監督である。ノボシヴィルスクや オーストラリア、モイセーエフ・バレエなどで踊ったのちに、マリインスキー・バレエに参加してナタリア・マカロワのパートナーとしても踊った。

ルジマトフが自身の身体の美しさを生かして、青年の心のロマネスクを描いて踊った。ラストの大地から一本の腕を垂直に立てるシーンは、ルジマトフの高度な集中力を表していた。
第2部は、リムスキー=コルサコフが『アラビアン・ナイト』の挿話に基づいて作曲した同名の曲に、ミハイル・フォーキンが振付けた『シェヘラザード』。ユリア・マハリナがゾベイダ、ルジマトフが金の奴隷、タランダがシャリアール王に扮している

『アダージェット~ソネット~』


『シェヘラザード』
『シェ ヘラザード』は、装置、衣裳がレオン・バクスト、台本にはアレクサンドラ・ブノワが参加し、金の奴隷はワツラフ・ニジンスキー、ゾベイダはイダ・ルビン シュタインという、バレエ・リュス初期のスタッフ、キャストが創り、当時の観客に衝撃を与えた舞台である。とりわけ、バクストの装置は、宦官がうろつく豪 華極まりないハーレムの内部をそのまま移転してきたような、濃厚な官能性を凝縮したセンセーショナルなもので、衣裳はパリのファンッションにも大きな影響 を与え、流行となった。私は今年の3月にマリインスキー劇場のルジマトフのガラで、ザハロワのゾベイダで観たが、幕が開いた瞬間は、いささかの美的な ショックを感じさせられた。

ルジマトフの金の奴隷はやはり圧巻。マハリナのゾベイダには少し迫力不足を感じたが、囚われた女の一瞬の死が生のきらめきを発する、というフォーキンの 趣旨は鮮やかに見えた。観客はもちろん、大喜び、圧倒的なスタンディング・オベイションで、何回もカーテンコールを迎えていた。
(10月8日、新宿文化センター)