ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2006.08.10]
 長い梅雨がやっと開けたと思ったら、案の定、猛暑がやってきました。けれど、東京の夏はダンスの季節、エキサイティングで熱い舞台がいっぱい。 今月から、「パリは燃えているか?」の欄は、渡辺真弓さんに変わって斎藤珠里さんが担当してくださることになりました。ロンドン、ニューヨーク、東京とともに、世界のダンスの潮流が一望できる「Dance Cube」を今後ともよろしくお願いいたします。

ジョエル×サープ『ムーヴィン・アウト』の素晴らしいニューヨーク

全曲ビリー・ジョエルの音楽を使って、原案から演出・振付をトワイラ・サープが創ったブロードウェイ・ミュージカル『ムーヴィン・アウト』が上演されている。2003年には、この作品はトニー賞最優秀振付賞、アステア賞ほかを受賞している。
ニューヨークの仲の良いカップルたちが、時代の息吹きを感じながら結ばれたりほどけたりしていく様子を、ジョエルの音楽とダンスで綴っている舞台である。

第1幕では、60年代風のいささかオカマ坊ちゃんみたいなニューヨーク・ファッションを纏ったカップルが登場。幸せを信じる時代の空気を満喫するように踊る。
第2幕になると一転して、ディンジャラスなニューヨーク。通りすがりの女性にからみ、金をかすめ取る男たちがあちこちにたむろする街に変貌している。サイケデリックな照明が舞台に溢れ、ドラッグに明け暮れる若者たち。
やがて死神までも登場して<プレッシャー>。俺たちは一緒に死ぬんだ、と。ヴェトナム戦争の黙示録ふうのヴィジュアルも現れる。
そして、ドラッグで失った身体をジョギングで回復する、とまでは単純ではないだろうが、愛を信じて生きるアイディンティイを掴まえる。ニューヨークの変遷をそのまま現代の絵巻として、素晴らしいジョエルの音楽とサープのダンスで回り舞台のように鮮やかに描いている。

サープの振付は、女性ダンサーの美しい脚を強調して、バレエの動きを基本としながら様々のヴァリエーションを使っている。美しい脚には、たいてい高い ヒールの靴が履かれているが、時折、トウシューズも使われていて、サープ独特のアーバン感覚の魅力的なラインが舞台に魔術をかけたよう。簡潔な演出ととも に、ニューヨークで創られたニューヨークの音楽によるニューヨークを描いたミュージカルの傑作である。
バレエファンにもお馴染みのラスタ・トーマスが、ブレンダン・キングとダブルキャストで、主役のエディを踊っている。
(9月2日まで、東京厚生年金会館)