ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2006.05.10]
 花の季節。桜が終るとたちまち、百花繚乱、つつじやハナミズキ、藤や牡丹など様々な花が咲き競って香りと色彩につつまれる季節になりました。

森下洋子の『ジゼル』

  松山バレエ団の恒例のゴールデンウィーク公演は、今年、舞踊歴55年を迎える森下洋子が主演する『ジゼル』である。ひとくちに55年というが、そこにはご 本人にしか知り得ない努力があるのはいうまでもないが、周辺から見ていても、広島から新幹線で東京に習いに来ていた頃のことから、修行時代、ヴァルナ国際 バレエ・コンクールの金メダル受賞、フォンテーン、ヌレエフなどと国際舞台で華々しく活躍した時代、松山バレエ団のプリンシパルとして古典作品の主演を続 ける今日と、まるで日本のバレエの歴史の一齣一齣を映す走馬灯である。

『ジゼル』は、森下洋子の55年の流れの中で1977年に芸術祭大賞を受賞した作品である。そうしたこともひとつ心の片隅においておくと、彼女の舞踊史の 中で培われたものが静かに光を放ち、舞台の表現に自ずから姿を表しているのを感じとることができるはずである。

  とりわけ、第2幕のウィリーの形象は、練達の職人が練りに練って作り上げていった和紙の肌触りのような日本の美しさが輝く森下洋子独特のものであり、世界 のどのようなバレリーナにも創ることはできない。それは、森下が世界の檜舞台で踊り、自身の身体や表現する力、音楽的感性など自身を隅々まで知ることがで きた精華というべきであろう。

松山バレエ団の清水哲太郎版の『ジゼル』は、第1幕冒頭から、ロイスが登場する由来や心理を油絵の具を何重にも塗り重ねるように描いていく。比較的シン プルな表現が多いバレエの舞台の中でも、慎重に丁寧に描いていく演出である。第1幕はそうした表現により、悲劇的情感がじわじわと高まってジゼル狂乱の場 に至る。
そして第2幕ではこの油彩のタッチが、チュチュを纏った森下洋子のウィリーを、かがり火で照らされた薪能の能楽師のように、浮かび上がらせる効果を醸していた。
(5月3日、オーチャ-ドホール)