ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2006.05.10]

パリ・オペラ座バレエ団/『白鳥の湖』『パキータ』

 世 界の名門、パリ・オペラ座バレエ団が三年振りに来日し、『白鳥の湖』と『パキータ』を日本初演した。というと不可解に思われるだろうが、前者はヌレエフが バレエ団芸術監督に就任した翌年の1984年に演出・振付した版によるもの。後者は、今日伝わるプティパ振付のグラン・パとパ・ド・トロワだけでなく、全 幕版としてピエール・ラコットが2001年に復元した作品である。どちらも見逃せない演目だった。

ヌレエフ版『白鳥の湖』は、眠るジークフリート王子の脇でオデットと家庭教師が出会うシーンに続き、ロットバルトに姿を変えた家庭教師がオデットを捕え て白鳥に変え、爪にはさんで舞い上がるという独創的な導入で始まった。すべてを王子が見た夢と解釈し、王子の心の内に焦点を当ててドラマティックに展開す る。最後はロットバルトが白鳥になったオディールを捕えて舞い上がり、王子とオディールは黄泉の国で結ばれることもないという悲劇的な結末だ。それにして も、細やかに王子の面倒を見る家庭教師と、王子が愛するオディールを奪って二人を翻弄するロットバルトを同一人物にして善悪の二面性を強調したほか、家庭 教師の王子に対する特別な思い入れを匂わせていたのが興味深かった。

ルテステュ&ル・リッシュ


ルテステュ&ル・リッシュ
  ヌレエフ自身が名ダンサーだっただけに、随所に難度の高いテクニックが取り入れられており、ソロだけでなく群舞にも男性の見せ場が増やされていた。王子役 は、この三月にエトワールに昇格したばかりのエルヴェ・モロー。すらりと伸びた美しい脚を武器に、高度な跳躍や回転をしなやかにこなした。演技はまだ硬い 部分があったが、今後が楽しみな期待のダンスール・ノーブルである。オデット/オディールのデルフィーヌ・ムッサンは、白鳥を品良くたおやかに踊り、黒鳥 ではあくの強さを際立たせなかったが、これは彼女の個性かもしれない。ポール・ド・ブラが美しかった。家庭教師/ロットバルトはステファン・ファヴォラ ン。舞踏会では、ロットバルトがシャープな回転や跳躍を見せるソロもあり、王子とオディールのデュオに割って入って踊るなど、重要な役割を担った。群舞も 含め、総じてバレエ団のレベルの高さをうかがわせた。
(4月22日昼・東京文化会館)
*写真は4/21公演より

『パ キータ』(音楽・テルデヴェズ、ミンクス)は、ジョゼフ・マジリエによる1846年の初演版と、プティパによる1881年の改訂版をもとに、ラコットが復 元した二幕三場のロマンティック・バレエである。ナポレオン支配化のスペインを舞台に、フランス人将校リュシアンと恋に落ちたジプシー娘パキータが、この 地で殺されたフランス人貴族の娘でリュシアンの従妹と判明して結ばれる物語だが、これに、彼女に横恋慕するジプシーの首領イニゴやフランス人を憎悪する知 事の陰謀がからむ。

筋運びは明快すぎるほど明快だが、ラコットは"神聖不可侵"な格式高いプティパの振りは残し、村人たちやジプシーたち、スペインのダンサーたちの民族色 豊かな踊りを自ら振付、マジリエが重視したマイムによるドラマ展開も見所の一つにして、メリハリの効いた作品に仕上げた。かつてタリオーニ版の『ラ・シル フィールド』を復元したラコットの手腕が、ここでもうかがえる。

オスタ&ペッシュ


オスタ&ペッシュ
パ キータは、この役を踊ってエトワールに昇格したクレールマリ・オスタ。まずジプシーたちと一緒に敏捷な踊りを披露。次の場でジプシーの住処を訪ねてきた リュシアンに身の危険を知らせようと、踊って時間を稼ぎ、イニゴに隠れて身振り手振りで必死に伝える様が真に迫り、ここは彼女の一人舞台に近かった。最後 のグラン・パではポアントの技巧も揺ぎなく、この上なく典雅に舞って威厳を示すといった具合に、多様な踊りや演技で魅力を発揮した。リュシアンのバンジャ マン・ペッシュは、婚約者がいながらパキータに惹かれる育ちの良い青年を自然体で演じ、伸びやかなジャンプや切れ味鋭い回転も冴えていた。イニゴのステ ファン・ファヴォランも勢いのよい回転を見せたが、悪役としての凄みがもっとあっても良い。ほかに、第一幕のパ・ド・トロワで踊ったマロリー・ゴディオン の巧みな跳躍も印象に残った。
(4月28日、東京文化会館)