ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2005.12.10]

●シュツットガルト・バレエ団『オネーギン』『ロミオとジュリエット』

  シュツットガルト・バレエ団が3年振りに来日した。1996年に芸術監督の座をマリシア・ハイデから引き継いだリード・アンダーソンは、同団を世界の名門 に育て上げたジョン・クランコの遺産を守りながら、新しいレパートリーを開拓している。だが今回もクランコ作品を取り上げ、作品の魅力と若返ったダンサー の魅力をアピールすることになった。

まず、プーシキンの韻文小説に基づく『オネーギン』を、パリ・オペラ座バレエ団からマニュエル・ルグリを題名役に招いて上演した。田舎を訪れた虚無的な 貴族オネーギンは文学少女タチヤーナの愛を拒否し、気まぐれにその妹を執拗にダンスに誘ったため、友人でもあるその婚約者から決闘を申し込まれ、相手を倒 す。数年後、公爵夫人として美しく成長したタチヤーナに再会し、愛を告白するが、拒否されるという物語。ルグリにとってオネーギンは初役だったそうだが、 黒いスリムな衣装から冷ややかさを漂わせ、慇懃無礼な振るまいや鼻先で笑う様なども板についていた。タチヤーナ役のマリア・アイシュヴァルトも、最初はお ずおずした物腰だが、公爵のサポートで優雅に舞い、落差を際立たせた。

「オネーギン」


「オネーギン」
  だが、ハイライトは二人による対照的なデュオ。一つは、タチヤーナが恋文を書きながら眠りに落ち、夢の中で鏡から現れたオネーギンと踊る場面で、アイシュ ヴァルトとルグリは、流れるように美しい躍動感溢れるデュオを展開した。もう一つは終幕のドラマティックなデュオ。タチヤーナの愛を得ようと、激情も露わ にすがるルグリの迫真の演技に呼応して、アイシュヴァルトも、最初は動じないが、身をたわめてルグリに絡むなど、揺れ動く心の内を手に取るように伝えた。 形を変えてのルグリの力強いリフトが、二人の感情の高まりを物語り、それだけに愛を拒否した後のヒロインの悲嘆が浮き彫りにされた。
あらゆる場面で、踊りがせりふとなり、心情の吐露となり、ドラマが紡がれていく。クランコの手腕はさすがで、この作品が物語バレエとして極めて完成度が高いことを改めて認識した。チャイコフスキーによる、同名の歌劇以外の音楽を用いた選曲も心にしみた。

前回も上演された『ロミオとジュリエット』は、韓国出身のスー・ジン・カンとポーランド出身のフィリップ・バランキエヴィッチが組んだ日を観た。正直なとこ ろ、西洋人に囲まれたスー・ジン・カンに、最初は異なるものを感じたが、それはすぐに消えた。舞踏会では、パリスに対する丁重な面持ちから一転して、ロミ オへの募る想いを体を弾ませて表す。バランキエヴィッチも、育ちのよいロミオのイメージ通りで、溌剌としたジャンプで若さを出した。バルコニー・シーンの デュオでは、ロミオがジュリエットを高くシフトし、抱えて回すたび、二人の愛が燃え上がり、固い絆が結ばれていく様が見て取れた。この躍動感あふれるデュ オと対照的に、ジュリエットの寝室の場面では、優しく諭すロミオの理性と、すがりつくジュリエットの切なさが巧みに交錯していた。

「ロミオとジュリエット」


「ロミオとジュリエット」
市場の賑わいや舞踏会の場、決闘シーンなどは、登場人物の心理にも光りを当てた、起伏に富んだ踊りでじっくり見せるが、クランコは説明的になるのを避けたの か、二人の結婚の場や、ジュリエットが仮死状態で見つかる所などは、驚くほどあっさりしている。納骨堂でも、ロミオはジュリエットをかき抱きはするが、何 度も繰り返さず、二人がそれぞれ命を絶ったところで終わる。死に向かって一気に収束させて、余韻を残したのだろう。
ひょうきんに踊ってみせたマキューシオのエリック・ゴーティエ、冷厳なティボルトのイヴァン・ジル・オルテガ、そして気品を備えたパリスのエヴァン・マッキーらも、役所を心得た緊密なアンサンブルを紡いでいた。
(11月8、12日、東京文化会館)