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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2005.07.10]

●ベルリン国立バレエ団『ラ・バヤデール』『ニーベルングの指環』

 ベルリン国立バレエ団は、2004年、ベルリンにある三つの歌劇場のバレエ団を統合して誕生した国内最大のバレエ団。 統括するのは、2002年からベルリン国立歌劇場バレエ団(旧東独)の芸術監督を務めていたウラジーミル・マラーホフである。 そのマラーホフ振り付けの『ラ・バヤデール』とベジャールの大作『ニーベルングの指環』で初来日を飾った。

『ラ・バヤデール』(プティパ原作)は、1999年にマラーホフが初めて振り付けを手掛けた作品で、2002年のベルリン国立歌劇場バレエ団での上演に際して改訂を加えたという。 古代インドを舞台に、戦士ソロルが寺院の舞姫ニキヤと愛を誓いながら、領主の娘ガムザッティとの政略結婚に心を動かしたことから起こる悲劇を、ニキヤに横恋慕する大僧正をからめて描いた異国情緒豊かな作品。 マラーホフの演出は、ソロルの心の動きを際立たせながら、随所に踊りの見せ場を築き、寺院崩壊のクライマックスへと、よどみなく運ぶ。 ユニークなのはソロルがニキヤに贈った白いスカーフの活用で、大僧正はこれをソロルの心を伝えるものとして領主に示す。 結婚式ではガムザッティがスカーフを手にするや、これに血が滲んでニキヤ殺しが暴かれることとなり、ソロルの悔恨の念を引き立てた。

『ラ・バヤデール』
マラーホフ/ヴィシニョーワ

初日は、マラーホフのソロル、客演のディアナ・ヴィシニョーワのニキヤ、ベアトリス・クノップのガムザッティという配役。 ターバンを巻いて登場したマラーホフは、颯爽として、いつもより長身に見えた。 第一幕のソロルとニキヤの密会では、甘く流れるようなデュオが、シフトなどを用いて激しさを加え、燃え上がる愛を伝えた。 一方で、圧力に翻弄される弱さや抗おうと悩む心を自然体で表した。 ヴィシニョーワとクノップはテクニックも安定しており、前者のたおやかな振りと後者のバネのきいた強靭な踊りが好対照をなした。 黄金の仏像のマルチン・クライエフスキーも高いジャンプを卒なくこなす。ただ「影の王国」での精霊たちによる群舞は、有名なだけに、今一つ精緻さが求められる。

  『ラ・バヤデール』

バレエ『ニーベルングの指環』は、ワーグナーの同名の楽劇を下敷きにベジャールが作舞し、1990年10月の東西ドイツの統合に先立ち、3月にベルリン・ドイツ・オペラ(旧西独)で初演したもの。 日本では同年10月にベジャールのバレエ団が上演済み。 世界制覇を約する指環をめぐる権力抗争に神々や人間界の愛憎が絡み、多くの普遍的な問題を投げ掛ける四部構成の楽劇で、上演に四日を要するが、 ベジャールは、1989年のベルリンの壁崩壊を踏まえて独自の解釈を加え、上演時間四時間半弱の二部構成のバレエに刈り込んだ。 物語は、原曲を編曲したピアノ独奏と、オーケストラや歌唱のテープ演奏で進行する。


『ニーベルングの指環』
バレエ・スタジオを思わせる舞台に、弁者(ミカエル・ドナールが熱演)を語り手として起用し、さすらい人と神々の長ヴォータン役を別に設けて複眼性を持たせ、 火の神ローゲにヴォータンの分身的な役割を与え、また原作にない人物を登場させ、場面の順序を変えるなど、卓越した演出である。 ダンサーではブリュンヒルデのポリーナ・セミオノワが輝いていた。 黒革服で槍を持ち、腰を回す所は、ワルキューレ(戦乙女)の逞しさに欠けていたものの、父ヴォータンとのデュオでは、背をそらせて父の膝に頭を乗せ、 親子相姦的なキスを受ける衝撃的なシーンもあり、夫となる英雄ジークフリートとのはずむようなデュオ、また愛に殉じる前のローゲとの官能的なデュオで、たおやかな魅力を発揮した。

竹馬のような長棒に乗った巨人族の出現、ジークムントとジークリンデのまとわりつくようなデュオ、歌も歌うミーメの達者な演技など見所は多く、 また左足にトゥーシューズ、右足にハイヒールをはいたグリムヒルデがアルベリヒと交わりハーゲンを生む提示は、 親子ながら双子を思わせるアルベリヒとハーゲンのデュオと合わせて、歪められた人格や陰謀を匂わせて鮮烈な印象を刻んだ。 人間の業をひたと見据えたベジャールだが、苦しみの果てに世界の終焉に立ち合う幕切れに、ワーグナーの『パルジファル』の音楽が流れ、救いを暗示して終わ る。実に壮大な叙事詩だった。
(6月25日、東京文化会館/※写真は24日の舞台より)


ジークフリートと竜

神々と巨人族

さすらい人とローゲ