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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2005.03.10]

●マシュー・ボーンの『白鳥の湖』やはりおもしろい

  昨年大ヒットを記録したマシュー・ボーンの『白鳥の湖』が再演された。昨年は『くるみ割り人形』『プレイ・ウイズアウト・ワーズ』も上演されたし、今年の 6月には『ラ・シルフィード』をモティーフとした『愛と幻想のシルフィード』も上演される。ボーン・ブームとでも言えるほどの上演ラッシュが続いている。

ボーン作品の魅力のひとつは、彼独特の音のとり方である。彼の『くるみ割り人形』を観たのは昨年の3月だが、いまだにチャイコフスキーのこの曲を聴くと ボーンの舞台のパジャマ姿のキューピッドのカップルやスケートのシーン、クッキーたちの踊りなどのシーンがつぎつぎと頭に浮かんでしまう。私は毎年、ボー ン以外の『くるみ割り人形』を、おそらく7, 8本は観ているはずなのに、鮮烈なボーン版が脳裡に刷り込まれてしまったのである。

この『白鳥の湖』の3幕のディヴェルテスマンも、「チャイコフスキーはボーンの演出意図を知っていて作曲したのではないか?」と思えるくらいエロティッ クなムードを舞台に漂わせる。演出家マシュー・ボーンが魔法の杖を一振りすると、チャイコフスキーの曲にのせてダンサーたちは、特上のフェロモンを発露 し、舞台には濃度の濃い官能が充満する。しかも白鳥にダンサーたちを擬したこの作品は、『くるみ割り人形』よりもはるかに攻撃的に感じられる。さらにもっ と言うと、『くるみ割り人形』は優しい愛を追求するドラマだが、『白鳥の湖』には愛はなくエロティシズムを描いたドラマである。

ボーンは白鳥たちと現実の人物を巧みに登退場させ、幻想と現実を転換させる。1幕でスナックから放り出され痛めつけられてた王子の前に、白鳥がふっと姿 を現すシーン、3幕では欄干を歩きながらストレンジャーがかっこよく登場してきたり、ラスト・シーンでは王子のベッドの中から、巣の中にこもっていた白鳥 が目覚めたように現れるなど、「出」の作り方もよく考えた鮮やな演出である。
ところで、あなたのベッドには白鳥は潜んでいませんか?
(2月23日、オーチャ-ドホール)