ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2005.01.10]

●白井剛のソロ公演は新作の『質量、slide、&』

 伊藤キム+輝く未来のダンサーとして踊った後、発条トの振付家としても活動している白井剛が、新作『質量、slide、&』を世田谷パブリックシアターのSept独舞シリーズで発表した。
自身の存在の感覚を質量といった視点から確認しよう、という舞踊家らしいといったらいいのか、実感的なのか抽象的な感覚を偏重しているのか、いずれにせ よ、きわめて率直な作品創作の姿勢である。終演後に行われた、伊藤キムとのアフタートークでは、制作のプロセスで、これは<ひきこもり>じゃないか、と いったジョークもでたと白井自身が告白していたが、こうした創作の姿勢をとるのかとらざるを得なかったかは知らないが、彼の気持自体はよく理解できる。

舞台に登場して、まず、卒倒したかのように思い切り倒れる。これは上手いツカミで、身体の質量の実体を観客に意識させることに成功していた。舞台には、 大木を抽象化したような形の木の壁、垂らされた皮ひも、椅子とミニコンポ、金魚の入った水槽などのあるコーナー、さらにボーリングの玉、キューピー人形、 コーヒーカップなど、要するに日常生活の小物がオブジェとして使われていた。こうしたセットの中で、大木にぶつかったり、皮ひもに振る下がったり、頭を秤 に載せて測ったり、といった動きをダンスとして繰り広げる。終盤には、角砂糖に紅茶を垂らして溶けて形が崩れゾル状になっていく過程の映像を速回しや逆回 転で見せた。

  アフタートークで本人が解説していたが、ほんとうは舞台上に本物の木を出したかった。それは、幼い頃に神社の木に向かって叩いたり、ぶつかったりしたその 反動の感覚を想ったから。重量だけではなく質量の中に存在感を感じ、物と一緒にあるだけでずれて動き出していく、そのスライドの感覚がダンスとなっていく のではないか、そういう話であった。

キムは白井作品の感想を司会に問われても<かっこいい>としか言わなかったのだが、それはもちろん観客全体の感想であるから、重ねて聞かれると、 「ちょっと仕掛けが多かったような気がする。この作品では意識して自分の身体を動かそうとしているが、もう少し身体から滲みでるものが欲しい」と語った。 一見、平凡な評のようであるが、誠に言い得て妙、さすがというべきである。
05年には、土方巽と大野一雄が踊った三島由紀夫の『禁色(きんじき)』をキムと白井が上演するという予告を聞き、白井剛のかっこよさとキムのダンス感への共感を胸に、劇場を後にした。
(11月26日、シアタートラム)