ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2004.12.10]

●アシュトン・バレエの醍醐味、牧阿佐美バレエ『リーズの結婚』

 牧阿佐美バレエ団がフレデリック・アシュトン版の『リーズの結婚~ラ・フィーユ・マル・ガルデ~』を上演した。
『ラ・フィーユ・マル・ガルテ』は、1789年フランスのボルドーのグラン・テアトルでドーベルヴァルにより初演されたが、その完全な楽譜は失われてし まった。その後パリ・オペラ座で上演された際には、エロールが編曲した。また、ベルリン上演にあたってヘルテルが別の楽曲を作った。さらにロシアに渡って 踊り継がれマリインスキー劇場のレパートリーとなった。バレエ・リュスを経てロンドンで暮したタマラ・カルサヴィナの薦めもあって、アシュトンが1960 年に新たなヴァージョンの『リーズの結婚』を初演した。音楽はエロールの楽譜をベースとしてヘルテルのものも加え、ランチベリーが編曲にあった‥‥といっ たアシュトン版の成立の事情は、この牧バレエのプログラムにすべて書かれている。歴史を尊重しよく整えられたプログラムである。

幕が開くとおんどりとめんどりたちのユーモラスな踊り。どんな展開になるか既に知っていても、のどかな田園の情景にストレスが癒されるのだろうか、舞台 へ気持が入って行く。おんどり、めんどりの形態模写が上手、というわけではない、とりの存在のもつ独特のおもしろさを踊りとマイムによって見事に表してい るので、思わず引き込まれてしまう。この作品は「普通の人々が描かれた初めてのバレエ」と言われるが、その端緒は、田園で愛嬌を振りまくおんどり、めんど りを活写することだったのかもしれない。というわけで、3公演通して若いおんどりを踊った小嶋直也とめんどりたちにまずは喝采を贈りたい。

 今回はトリプル・キャストだったが、私は、橘るみのリーズ、逸見智彦のコーラス、ドミニク・ウォルシュのアランで観ることができた。
橘は以前よりもさらにほっそりとした印象だった。相変わらず舞台度胸がいいのか、力みがなくそつのない安定した踊りである。スムーズな踊りのいい流れを もっているが、まだ少し表現が押さえ気味のような気もする。もっと思い切った表現をしてもいいと思うのだがどうだろうか。逸見も魅力的な踊り、ハンサムだ し良い舞台だった。敢えていえば、もう少し抜け目のなさを強調してもよかったかもしれない。保坂アントン慶のシモーヌが意欲的に大柄の身体で演じた。会場 から「可愛い!」と声がかかる好演だった。

クラシック・バレエはどちらかというと、貴族趣味や神秘的な世界に目を奪われがちだが、のどかな田園を背景としたごく普通の感情を謳うこうした作品もまた、楽しく味わうことができるのである。
(10月30日、青山劇場)