ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2004.11.10]
台風の相次ぐ襲来、なかなか収束しない大地震、と明るい話題がみつからない秋になってしまいました。被害を受けられた方々に衷心よりお見舞い申し上げます。 翻ってダンス界には、自然の力をも凌駕するような新しいフォースを持った作品群の出現を、ひたすら期待しております。

●「ルジマトフのすべて2004」で笠井叡の『レクイエム』を踊ったルジマトフ

 今回の「ルジマトフのすべて」で、彼は、『薔薇の精』(ウェーバー/フォーキン)、『海賊』(ドリゴ/プティパ)のグラン・パ・ド・ドゥ、『ムーア人のパヴァーヌ』(パーセル/リモン)、そして新作の『レクイエム』(モーツァルト、ストーン/笠井叡)を踊った。
『レクイエム』の音楽は、モーツァルトの同名の曲を基にしてアメリカの現代音楽家C.ストーンが作曲したものである。笠井は、ゆっくりとしたテンポにした 上で、モーツァルトの曲に内在している宗教感情のようなものが、空間にゆったりと立ち上がってくる音楽を求めた、という。そのストーンの曲が流れる中で、 笠井が選んだ言葉をルジマトフ自身がロシア語で朗読する、その二つの音がこの作品の音楽となっている。それはルジマトフというダンサーが、クラシック・バ レエに属性として結びついている音楽の時間軸から離れて、音楽と言葉が構成するイメージの空間で踊る試みでもあった。

  ダンスの展開は、ある日ルジマトフがつぶやいた「ニジンスキーは最期まで正気だった。彼は発狂していない‥‥」という独白に笠井がインスパイアを受けて 創っている。ニジンスキーというクラシック・バレエを極めたダンサーが、『薔薇の精』から『ティル・オイゲンシュピーゲル』を経て、サン・モリッツのホテ ルの最後のパフォーマンスに到るまで、ニジンスキーのクラシック・バレエそのものが内部から崩壊していく有り様を、黙示緑として描いたものである。
舞台を観ると、今までクラシック・バレエの超絶的な動きで見なれたルジマトフの身体とはまた異なった、舞踏的というか笠井のダンスのヴォキャブラリーを 踊る彼がもの珍しく、新しい舞踊体験が得られる。まるで、クラシック・バレエの身体と舞踏の身体が、シルクロードで出会って葛藤を生じていような印象とで も言えばいいのだろうか。
ともあれ、今日、「黙示緑」を身体によって美しく表すことができるダンサーが、このルジマトフのほかにいるはずもない。その意味でもルジマトフの身体は、唯一無二のものとして観客に捉えられているのである。(9月30日、東京芸術劇場、中ホール)