ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2004.09.10]
今年は台風の当たり年だとか。記録破りの猛暑の後に、台風一過、東京を覆っていた熱気を振り払って、一気に、一点の雲りなき秋日和、とお願いしたいもの。外界とは隔絶しているとはいえ、劇場空間にもまた清新な意欲が漲る舞台を切望する秋。

●K バレエがプティの『カルメン』と熊川の『ソリチュード』を上演

 K バレエが『カルメン』を上演したのは2000年。今回が3回目の上演である。カルメンのヴィヴィアナ・デュランテ、ホセの熊川哲也が鮮烈な印象を残したのはいうまでもないが、アンサンブルもまた見事であった。

プティの『カルメン』は、タバコ工場、酒場、寝室、通り、闘牛場の前の1幕5場の構成である。プティはテーマを、ホセとカルメンの愛と殺人に絞って、原 作のもろもろのエピソードをあっさりと捨ている。そしてアントン・クラーヴェの黒を基調として鮮烈な赤を配したスペイン・カラー、椅子やベッド、ブライン ド、帽子、タバコなどの小道具を巧みに使ったモダンな感覚の演出、ミュージカルなどのポピュラー・ダンスの動きを取り入れたムーヴメントが、ビゼーの曲の リズムと見事に一致して観客を魅了する。

この作品ではアンサンブルがそれぞれが、表現するものを正確に把握していなければ動けない。ちょうど指揮者に導かれてオーケストラが音楽を奏でるよう に、動きのアンサンブルが創られて演出されているからである。ビゼーの曲をプティの素晴らしいヴィジョンによって見せているのである。今回のK バレエ公演の『カルメン』は、そうした印象を残したアンサンブルが美しい舞台であった。それはまた、K バレエ カンパニーのダンスの水準が高まったことを証明しているのである。

熊川哲也振付の『ソリチュード』は今年4月の初演された。今回の公演では、若干の手直しが加えられた。白い仮面をつけて屋根の上を行きつ戻りつしていたダンサーが、最後のシーンで仮面を外してホールに落とすのだが、その仮面の下もまた仮面であった、という演出になった。

仮面はこの作品で唯一使われていた小道具。主人公をめぐるダンサーは、仮面をつけていたりつけていなかったりする。「ソリチュード=孤独」の視点からみ るとそのように見えるのだろうか。そして、仮面を外すとまた新しい仮面が現れる……。現代のわれわれが直面している孤独の錯綜した姿が、そこに現れている のかもしれない。
(8月26日、文京シビックホール)