ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2004.07.10]
空梅雨なのに湿度が高く極度に蒸し暑い、という歓迎すべからざる気候の下、一服の清涼感を求めて、ダンスの公演会場を経巡った。ダンサーもスタッフもみなさんがんばっていて大いに癒されました。ありがとう!

●ダンスの快楽!ラ・ラ・ラ・ヒューマン・ステップスの『アメリア』

ラ・ラ・ラ・ヒューマン・ステップスの『アメリア』は素晴らしかった。客席で観ていると、魂が舞台に吸い上げられてしまうような、得難いダンスの快楽を 堪能させてくれた。駆け出しのコンテンポラリー・ダンスとの格の違いをまざまざと見せつけてくれて、まさに胸のすく思いである。

音がまったく消えたスクリーンにドラマティックな映画が映し出される。名前も知らない俳優たちが、愛を告白したり、拒絶したり、嫉妬に狂ったりといった 演技を展開する。この俳優たちの動きを高速ムーヴメントにして舞踊の表現として整理し、エドアール・ロック独特の振付けを創る。そしてシーケンスの展開に リズムを与え、ディヴィッド・ラングの音楽とシンクロさせる。『アメリア』を見ながらこの作品は、そんなふうにして創ったのではないか、などと思った。

スタッカートなミニマルミュージック、遠雷をアレンジしたような強烈な響き。甘く切ない陰翳を歌う見事なハスキーヴォイス。音楽がポワント・シューズの動きを中心とした振りとマッチし、不思議な魅力を発揮する。

歌手もヴァイオリンやチェロの奏者も演奏しながら動く。ヴォーカルがうつ伏せになって歌ったり、出を待つダンサーがピアニストの傍らで動きを真似たり、 ピアノにのっかてしまったり、奏者がダンサーに近寄って弾き聴かせるように演奏したり、テープ曲のときはミュージシャンは舞台奥で大人しく待機する。パ フォーマンスは舞台全体が一体となって展開される。自然でおもしろい演出だった。

最も特徴的だったのは舞台を鋭く支配し、映画のカッティングと同様の効果をあげた照明である。モノクロームのフィルムノワールを想わせる光と影のリズムが、客席を去ってからも瞼の裏で続いていた。

写真家でもあるロックのダンサーの写真が、大きなポワント・シューズをデザインしたようなスクリーンに映され、メープルの葉脈を抽象化したような模様が吊りものとして使われていた。優れたコンテンポラリーな感覚の舞台美術である。

やはりダンサーたちに賛辞を贈りたい。切れ味鋭いロックの高速ムーヴメントと、前作『ソルト』よりはるかに複雑な構成をいとも容易に踊ってみせ、このカンパニーの水準の高さを鮮やかに示したのだから。 (6月16日、彩の国さいたま芸術劇場)