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吉村 麻希 text by Maki Yoshimura 
[2016.11.10]
From Osaka -大阪-

ドラマティックな愛憎劇を壮大なスケールで演出、法村友井バレエ団『バヤデルカ』

法村友井バレエ団
『バヤデルカ』法村牧緒:芸術監督/演出 ユーリー・ペトゥホフ:振付

法村友井バレエ団の13年振りの再演となる『バヤデルカ』。欧米表記では『ラ・バヤデール』となるのだが、『バヤデルカ』というロシア表記の作品名でスラミフィ・メッセレルの振付により、1966年に第3幕“幻影の場”を法村友井バレエ団が日本初演をした。その後、現在では“幻影の場”で物語を終えるキーロフ版を元にした演出の機会が多いこの作品を、団長 法村牧緒による作品研究・振付によって、最後に神殿が崩壊する場面までを日本で初めて復元。3幕8場構成の全幕を1986年に日本初演した。そして1993年、2003年と再演。今回の再演では、法村牧緒の演出、ミハイロフスキー劇場バレエマスターのユーリー・ペトゥホフ振付により、“ラジャの館の崩壊”までを描いた全幕での上演となった。

osaka1611c_2912.jpg 法村珠里 撮影/尾鼻文雄

ニキヤ役の法村珠里、サロル役のミハイロフスキー劇場プリンシパル、ミハイル・シヴァコフ、ガムザッティ役の今井沙耶をはじめ、主要キャストに技術・演技力共に定評のあるダンサーを配し、“ラジャの館の崩壊”までを描ききったことで、この壮大なドラマティック・バレエがより重厚なものとなった。
高僧(井口雅之)は聖職にある立場を忘れ、想いを寄せていることを僧院で舞うニキヤに告げるが、彼女はそれを拒絶する。ニキヤ役の法村珠里の清廉で毅然とした様子とまなざしが、皮肉にものちの悲劇の萌芽となる。狩りから帰ってきた相愛の仲であるサロルとのパ・ド・ドゥでは、巫女としての端正な舞いとは変わり、愛する者と時を分かつ幸せが、指先から溢れだすかのようにしっとりと優しくパが紡がれる。このような情感の機微を表す法村珠里の表現力は全幕通して随所に光った。
ラジャ(法村圭緒)の館で、その娘であるガムザッティとサロルの結婚が宣言され運命は一転する。ニキヤの存在がありながら、サロルが翻意するのにも無理はない、と思わず納得してしまいかねないまばゆさがガムザッティ役の今井沙耶にはあった。容姿の華麗さに加え、気高さを感じさせる揺るぎのないしなやかな強さが魅力的で、可憐で清らかさが映える。ニキヤとは対照的な魅力があった。ガムザッティがニキヤを呼びだし対峙する場面で、その違いはより鮮明になる。美貌も権力も持ち合わせているがゆえに、サロルを手に入れることに何の躊躇いもないガムザッティ。サロルとの愛の誓いを強く信じ、結ばれることに迷いのないニキヤ。立場も愛し方も全く異なる2人が激しく争う場は圧巻だった。諍いの末に短剣を振りかざすニキヤを、ガムザッティの召使いが止めに入る。我を忘れた自身の激情にしばし愕然とするニキヤと、その姿を強く見つめるガムザッティ。その一瞬の静寂に、忍びよる哀しい運命の気配が漂った。
ガムザッティとサロルの婚約披露の宴でニキヤは謀殺される。ニキヤを見殺しにした悔悟の情に耐えられなくなったサロルは、阿片を吸い、深い眠りにつく。幻影の中に次々に現れる精霊たちの中にニキヤを見つけ出したサロルは彼女に深い悔いを告げ、赦される。かつてのように寄り添い踊る2人だったが、それはすべてサロルの夢だった。
ガムザッティとの結婚の儀式を挙げようとするサロルの前に、ニキヤが亡霊となって現れる。ぞっとするほど冷ややかな空気を纏うニキヤの亡霊の佇まいが、サロルの見た夢がいかに勝手な願望が作り出したものであったかを明らかにする。バラモンの神の怒りによりラジャの館が音を立てて崩壊する。そしてサロルの魂を連れてゆくという悲劇的な終幕が、登場人物の各々の業の深さを浮き彫りにし、この悲劇の余韻を重く深いものにした。
(2016年10月7日 フェスティバルホール)

osaka1611c_2093.jpg 法村珠里、ミハイル・シヴァコフ 撮影・尾鼻文雄 osaka1611c_2361.jpg 今井沙耶、法村珠里 撮影/尾鼻文雄
osaka1611c_0382.jpg 撮影/尾鼻文雄 osaka1611c_2544.jpg 富永太優 撮影/尾鼻文雄
osaka1611c_0740.jpg 撮影/尾鼻文雄 osaka1611c_3499.jpg 今井沙耶、ミハイル・シヴァコフ、法村珠里 撮影・尾鼻文雄