ソロマハや阪本絵利奈が踊って、テンポ良く闊達な舞台を見せた越智インターナショナルバレエ『海賊』

ワールドレポート/大阪・名古屋

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

越智インターナショナルバレエ

『海賊』越智久美子:演出・振付、ワレリー・コフトン:原振付(プティパ、グーセフによる)

ドラの音が鳴り響き、勇壮な音楽とともに越智久美子演出・振付による『海賊』全幕のプロローグの幕が開いた。激しい嵐の中、木の葉のように翻弄される一艘の帆船、大波に揺れ、船員が一人海中に投げ出される。
難破して陸地に漂着した船から海賊の首領コンラッド(ワディム・ソロマハ)、その手下のアリ(稲気大輔)とビルバンド(久野直哉)が海岸に打ち上げられて、息も絶え絶え。明るく若い空気を振りまくようなギリシャの娘たちがさわやかに登場し、倒れている3人を発見して驚く。優しく親切に介抱し、彼らは命拾いした。この場面でコンラッドと美しいギリシャ娘メドーラ(阪本絵利奈)は出会う。
『海賊』は、越智インターナショナルバレエの創立者、越智實が強い信念に基づいて努力し、1996年についに初演に至った。越智は、未だオーケストラの楽譜も入手できていない頃からさまざまの努力を重ね、アンドレイ・バターロフやワレリー・コフトンなどロシア・バレエの舞踊家たちの協力を得て、ついに全幕初演に漕ぎ着けたという。

越智インターナショナルバレエ「海賊」 撮影:岡村昌夫(テス大阪)0061.jpg

越智インターナショナルバレエ「海賊」 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

越智インターナショナルバレエ「海賊」 撮影:岡村昌夫(テス大阪)0071.jpg

越智インターナショナルバレエ「海賊」 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

越智インターナショナルバレエ「海賊」 撮影:岡村昌夫(テス大阪)0093.jpg

越智インターナショナルバレエ「海賊」 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

越智インターナショナルバレエ「海賊」 撮影:岡村昌夫(テス大阪)0112.jpg

越智インターナショナルバレエ「海賊」 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

メドーラたちは、突然、現れた奴隷商人ランケデム(ニコライ・ヴィユウジャーニン)にさらわれ、トルコの総督サイード・パシャ(ワレリー・グーセフ)などの大金持ちたちの前で競売にかけられる。
奴隷市場では、美しい女奴隷たちの競売が盛んに行われ賑わっている。
メドーラの友人のギュリナーラ(大下結美花)がランケデムとのパ・ド・ドゥによって、華々しく披露される。ニコライ・ヴィユウジャーニンが精力的に踊って、市場に大いに景気をつける。さらにメドーラも披露され、その美しさにサイード・パシャはたちまち魅了されてうろたえる。すると、変装して市場に潜入していたコンラッドたちが姿を現して、奴隷たちを一気に連れ去る。ランケデムも縛りあげられて捕らえられた。
第2幕は、海賊たちの洞窟。コンラッドの剣の踊り、ビルバンドの拳銃の踊り、さらに海賊たちの踊り、そしてアリが登場して、コンラッド、メドーラのパ・ド・トロワとなる。稲気の高い跳躍とスピード感、力強い踊りが観客にうけ喝采を浴びた。メドーラたちを無事に奪い返した海賊たちの喜びが溢れかえるシーンだった。
宴も終わって、コンラッドはメドーラの全霊を込めた願いを聞き入れて、女奴隷たち全員を解放する。驚いたビルバンドたちは激しく抵抗し争いになるが、コンラッドとアリに追い払われる。しかし、捕らえられていたランケデムが解放されて悪知恵を働かす。コンラッドに眠り薬を忍ばせた花束を与えて眠らせ、襲い掛かる。メドーラが抵抗してビルバンドを傷つける。アリたちが現れてビルバンドの一味を追い払う。
ビルバンドとコンラッドの争いは中々迫力があった。ソロマハは首領の貫禄を見せ、ビルバンドの久野も力強い踊りで堂々と対抗した。
第3幕はトルコのサイード・パシャのハーレムで繰り広げられる。3人のオダリスクのパ・ド・トロワ。ランケデムによる奴隷のマルシェが開かれ、次々と女奴隷たちが競売にかけられる。やがてメドーラのベールが取られて、パシャは大満足。そしてメドーラは、パシャのもとに仕えていたギュリナーラとの再会を果たす。
一際、美しいメドーラを得て心が大いに満たされてサイードは、花園で美女たちに傅かれた夢を見て、至上の幸福感を味わった・・・。
突然、大勢の巡礼たちがやってきて、パシャと祈りを捧げたい、と訴える。しかし彼らはコンラッドやアリたちの変装だった。幸福感に満ちていたハーレムは大混乱に陥る。やがてコンラッドとメドーラ、さらにアリとギュリナーラが脱出。帆船に乗って再び、冒険の旅へ、大海原を漕ぎ出していった。

越智インターナショナルバレエ「海賊」 撮影:岡村昌夫(テス大阪)0152.jpg

越智インターナショナルバレエ「海賊」 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

越智インターナショナルバレエ「海賊」 撮影:岡村昌夫(テス大阪)0284.jpg

越智インターナショナルバレエ「海賊」 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

越智インターナショナルバレエ「海賊」 撮影:岡村昌夫(テス大阪)0513.jpg

越智インターナショナルバレエ「海賊」 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

越智インターナショナルバレエ「海賊」 撮影:岡村昌夫(テス大阪)8025.jpg

越智インターナショナルバレエ「海賊」 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

原振付のマリウス・プティパとピョートル・グーセフとともに、コフトンが振付としてクレジットされている。音楽はアドルフ・アダン。磯部省吾が指揮する中部フィルハーモニー交響楽団が演奏した。
『海賊』は1856年パリ・オペラ座(マジリエ振付、アダン音楽)が初演とされるが、プティパによる再演、ゴルスキーの改訂などを経て、今日では復元されたヴァージョンが上演されている。越智インターナショナルバレエのヴァージョンは、全体になかなかテンポが良く、細部にはあまり拘泥せずに波乱の物語を闊達に展開。オーソドックスなストーリーとなっている。
男性ダンサーは力強くダイナミックに踊り、女性ダンサーたちはソリストも多く登場し、それぞれ堅実なテクニックをみせた。コンラッドのソロマハは落ち着いた演舞で首領としての存在感を表した。ワガノワ・バレエ・アカデミー出身の阪本絵利奈のメドーラと、モスクワ・バレエ・アカデミーに留学経験のある大下結美花のギュリナーラもしっかりとした踊りで物語を引っ張った。また、フォルバンの踊りはテーラー麻衣ほかで印象深いものがあった。
(2023年11月11日 愛知県芸術劇場大ホール)

越智インターナショナルバレエ「海賊」 撮影:岡村昌夫(テス大阪)8040.jpg

越智インターナショナルバレエ「海賊」 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

越智インターナショナルバレエ「海賊」00409 撮影:岡村昌夫(テス大阪).jpg

越智インターナショナルバレエ「海賊」 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

越智インターナショナルバレエ「海賊」00440 撮影:岡村昌夫(テス大阪).jpg

越智インターナショナルバレエ「海賊」 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

越智インターナショナルバレエ「海賊」00484 撮影:岡村昌夫(テス大阪).jpg

越智インターナショナルバレエ「海賊」 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。

ページの先頭へ戻る