ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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すずな あつこ text by Atsuko Suzuna 
[2013.10.10]
From Osaka -大阪-

素晴らしかった野間景、山本隆之、下村由理恵が踊った『バフチサライの泉』

佐々木美智子バレエ団
『バフチサライの泉』藤田彰彦:演出・振付

素晴らしい公演だった。多くの舞台経験を積んだベテランダンサーたちが、適材適所で主要な役をつとめ、ぐいぐいと引き込んでくれた舞台。音楽は稲垣宏樹指揮、エウフォニカ管弦楽団。
『バフチサライの泉』は、一般的にそんなに上演回数の多いバレエ演目ではないが、関西では複数のバレエ団に上演経験がありファンの多い演目だ。なかでも、この佐々木美智子バレエ団は1998年の初演以来、今回で4度目の上演。ちょうど10年前の2003年の上演では、文化庁芸術祭優秀賞を受賞している。

osaka1310b_02.jpg 撮影:文元克香(テス大阪)

今回、ポーランドのカップル、マリアとワズラフは野間景と山本隆之。これは初演時と同じキャスティング。白が似合い、控えめでピュアな野間、柔らかく優しく包み込むような山本、二人とも品があり、この役にぴったりだ。ハーレムの第一夫人ザレマは下村由理恵。ギレイが好きで好きでたまらなく、ギレイの心がマリアに移ることを心底悲しみ、戸惑い、混乱する様子が悲しみを伴ってストレートに客席の私たちに伝わってきた。
マリアの寝室で、ザレマが「ギレイを返して!」と懇願する場面がある。言葉が分からず、恋人や両親が殺されて連れてこられたばかりのマリアには何を言われているのか分からない、ただただ、ここから逃がして欲しい──といったシーンだが、ここは本当に難しいシーンでなかなか満足のいくできばえの舞台に出会ったことがなかった。ザレマとマリア、タイプの違うこの役を二人のプリマが演じるわけだが、実力に差があるとどちらかの印象が弱すぎて通り一遍に流れてしまい、どうして、ザレマがナイフを振り上げてしまうのかといったことが伝わらない、といったことが多い。それが、今回初めて、このシーンの迫力に釘付けになって観た。マリアとザレマ、どちらもが高い表現力を持ったプリマで、細かい心情の変化が手に取るように伝わる。言葉なんて発していないのに、2人の台詞が叫びとなって聞こえてくるようだった。そして、ザレマはマリアを刺してしまう。その瞬間、刺されたマリアがどこか安堵しているように見えたのは私だけだろうか?「あぁ、これで、ワズラフやお父さん、お母さんのところに行ける」──ありがとう、とでも聞こえて来そうな安堵感。野間景の抑えた表現がしっとりと私の心に響いた。
ギレイ汗を演じた小原孝司が複雑な心情を最低限の動きとでも言いたくなる微妙な演技で深く表現したのもさすが。
そして、とにかく圧巻は、佐々木大が踊ったダッタン軍の隊長ヌラリとダッタンの兵士たち。佐々木は1幕で現れた時から、気迫が舞台を一変させる、強い存在感だ。荒々しく踊りながら、そのパは美しくさすが。最終幕のダッタン兵士たちの群舞では、ぐいぐい引き込まれて目が離せず、いつまでもいつまでも観ていたいと強く思った。「踊りが心を掴むというのはこういうことなんだ!」と実感。この踊りなら、例えば「バレエは敷居が高く観るのは退屈そう」と思っている人に観せても、釘付けにするに違いないと、そんなことも思った。
(2013年9月6日 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール)

osaka1310b_01.jpg 撮影:文元克香(テス大阪) osaka1310b_03.jpg 撮影:古都栄二(テス大阪)
osaka1310b_04.jpg 撮影:古都栄二(テス大阪) osaka1310b_05.jpg 撮影:岡村昌夫(テス大阪)
osaka1310b_07.jpg 撮影:文元克香(テス大阪) osaka1310b_08.jpg 撮影:古都栄二(テス大阪)
osaka1310b_06.jpg 撮影:文元克香(テス大阪)