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桜井 多佳子 text by Takako Sakurai 
[2009.11.10]
From Osaka -大阪-

バランシン、キリアン、ナハリン作品を一挙上演した創作リサイタル21

貞松・浜田バレエ団
ジョージ・バランシン『セレナーデ』、イリ・キリアン『6DANCES』、オハッド・ナハリン『ブラック・ミルク』、長尾良子『セ・シ・ボン』

数々の佳作を生み、また海外の気鋭の振付家作品を紹介してきた創作リサイタル。21回目の今回、一作目は、長尾良子振付『セ・シ・ボン』(2006初演)。シャンソンの名曲にのせ、様々なシーンがコミカルに綴られていく。女性ダンサーたちが、はしゃぐように踊る姿は可愛らしく、ジャケット姿の男性のダンスもカッコいい。だが、全体に少々幼く見えすぎたのは残念。バレエ団教師でもある長尾には、どうしても団員たちが若く(幼く)見えるのかもしれない。だが、最近の同バレエ団員は年齢に関係なく成熟したダンサーが多い。そのギャップが空虚感を醸してしまった。作風としては悪くないので、エッセンスを凝縮すると小粋な作品に生まれ変わるのではないか。

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『ブラック・ミルク』(ナハリン振付)は2006年初演。上半身は裸、腰に生成りのような布を巻いた男性5人が、ポール・スマドベックのマリンバ曲とともに、独自の世界を作り出していく。一人ずつバケツから泥をすくい己の顔と身体に塗る。緊迫感ある儀式。その後の激しいダンスは、野生的なエネルギーを持つ。生きることの意義を問われているようにも、人間たちのどうしようもない孤独を突きつけられているようにも思える。振付指導は稲尾芳文。彼もナハリンも具体的なメッセージは語らない。しかし、観客に何かを強く訴えかけてくる。初演時に、凄烈な演技を見せ文化庁芸術祭新人賞を受賞した武藤天華は、しなやかさを加味していた。音楽を内包しつつ、エネルギーを使い果たすように踊る貞松正一郎は、動きに「渋み」が備わっていた。ドラマが語れる身体を持つベテラン・ダンサーへと貞松は確実に進化している。

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バランシンの傑作『セレナーデ』は2008年に同バレエ団のレパートリーに加えられている。今回は、ちょうど同時期に、「本家」ともいえるNYCB(ニューヨーク・シティ・バレエ)が来日中で、数日前に同じ作品を上演していたので、より興味深く見ることができた。もちろん単純に甲乙はつけられないし、その必要もない。しかし比較によって、バレエ団の個性は際立つ。腕の角度や動きのタイミングが揃っていたのは貞松・浜田バレエ団だ。ダンサーの身体が絞られていたのもそう。ただし、動きの伸びやかさとなるとNYCB。バランシン振付は、身体を引き上げた、その先の引き上げが現代性を際立たせるが、それをさすがにNYCBは理屈抜きに伝えていた。
貞松・浜田バレエ団は、どの作品でも「ドラマ」を大切にしているため、この『セレナーデ』でもダンサーたち同士の何気ない関わりが様々なドラマを生み出している。それは個性であり、それゆえに表情が豊かなのも良い。が、コール・ドのシーンでの全員のにこやかな笑みには、違和感を覚えた。そのようなアプローチも間違いではないのかもしれないが、作品の、そしてチャイコフスキーの音楽の清廉さは十分に生きず、全体に漂う「親しみ易さ」は、ともすれば作品の印象を平易にする。今の貞松・浜田バレエ団には、ドラマ性とともに洗練美も求めたい。

『6DANCES』(キリアン振付)は、喜劇性の強い作品。白塗りに巻き毛のかつら、18世紀の肖像画から抜け出た人物をディフォルメしたような格好の男女4人ずつが、モーツアルトの音楽とともに踊る。日本初演作品であり、いわばヨーロッパ貴族を品良く、コミカルに演じることは日本人ダンサーには不得手かと危惧したが、それは杞憂にすぎなかった。瀬島五月、廣岡奈美らが優れた音楽性を生かし、優雅に装った物腰で、スピーディな動きを見事にこなしていた。抜群のスタイルと、独自の甘さを持つアンドリュー・エルフィンストンもお洒落に好演。「ガイジン」効果とでも言おうか、ヨーロッパの香りを舞台全体に漂わせていた。
(2009年10月10日、神戸文化ホール・中ホール) 

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撮影:古都栄二(テス大阪)・金原優美(テス大阪)
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