ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2010.04.12]
From Nagoya -名古屋-

ダンサーを輝かせる深川秀夫の世界「Ballet Spitz バレエアーベント」最終公演

畑野ゆかり:振付「チャイコフスキーの夕べ」『Die Frau』
深川秀夫振付『パトロンと女達』『ファンタジー』
Ballet Spitz 「バレエアーベント」
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畑野ゆかり率いるBallet Spitzのバレエアーベントは、畑野を筆頭に東海地域のフリーのダンサーたちが自ら制作を担う意欲的な公演だ。5回目となった舞台も、もちろん深川秀夫の作品を中心にプログラムが組まれた。
幕開けは畑野の振付けによる「チャイコフスキーの夕べ」。今回初演となるこの演目では、『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』や『白鳥の湖』を始め、バレエ音楽の巨匠チャイコフスキーの名曲が散りばめられ、音楽とそれに寄り添うバレエが堪能できるよう構成されている。
畑野はシンフォニックバレエの様式を借りて、ソロ、パド・ドゥ、アンサンブル、コール・ドと様々なヴァリエーションで音楽の多様な解釈を見せた。

深川の1997年の『パトロンと女達』は、成熟した大人のダンサーのための作品。深川作品では、テクニックそのものを見せることに重きをおいた従来のクラシックバレエに比べ、表現力や音楽性がより重視される。よって必然的にベテランダンサー向けの演出が多いのも特徴であるが、中でもロートレックのムーランルージュを描いた絵画からヒントを得たというこの作品はその最たるものだろう。
薄暗く隠微な印象をすら与える舞台には下手に外灯が1本。ロングスカートを身に纏った女性たちが悪魔のような視線をひとりの男性に投げかける。引退間近の踊り子たちは、パトロンとなってくれるかもしれない男(窪田弘樹)を執拗に追い詰める。そしてついには思うようにならない男を身ぐるみ剥がせて丸裸にしてしまうのだ。熟女を演じたダンサーたちと追い詰められる窪田の対比がユニゾンの面白さとあいまってユニークな場面構成を作っている。窪田はこうした個性的な役柄を演じると存在感が抜群、深川作品になくてはならない存在になっていると感じさせた。
畑野振付の『Die Frau』では、女性をテーマに日常的な動きや身振りが多く見られるが、バッハの荘厳な音楽と違和感を感じることはない。「G線上のアリア」など、繰り返され、折りたたむように流れていくバッハの旋律は、上向きに照らされるライトと相乗効果をもたらし、一筋の光を追い続ける母の祈りの輝きのようだ。紫のワンピースの女性たちの美しく流れゆくダンスは音楽の解釈抜きに味わうことは不可能だろう。南部真希、小幡紀子、松本彩などのダンサーたちは音楽を身体に染み込ませて十分に解釈をしていた。それも深川作品を踊ることで自然に身についてきた音楽性なのかもしれない。
最後は、2005年に創作された深川振付の『ファンタジー』。20世紀を代表するスペインの音楽家、トゥリーナの音楽に乗せて展開されるシンフォニック・バレエだ。全体はスペイン風の真っ白いチュチュを身につけたコール・ドと畑野・窪田のパ・ド・ドゥで構成されている。素早く深川らしい動きが満載の難しいステップや高度なフォーメーションを上手くこなしたダンサーたち。主役の2人の息もぴったりでラストを盛り上げた。
5回目になった「Ballet Spitz バレエアーベント」も、今回で一息つくという。海外のバレエ団で当たり前のように舞台を踏んでいた畑野が、生まれ故郷の愛知に戻って、フリーのダンサーたちと舞台を作りたいという思いで続けてきた会だった。近年、オーディション制の舞台も増えたことで、ひとまず自分の役割を見直すことにしたという。
地域の状況は様々だが、愛知はバレエの盛んな土地柄にして、ダンサーが舞台に立つ機会は乏しい。畑野のように、自分の活動だけに留まらず、時には自らが先頭に立ち、客観的な視点でもって、新しいことに挑戦していくリーダーはとても貴重な存在だ。その成果と今後の発展に心よりエールを贈りたい。
(2010年1月30日 名古屋市芸術創造センター) 
 

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(C)エー・アイ 撮影:塩谷武
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「チャイコフスキーの夕べ」振付/畑野ゆかり、音楽/チャイコフスキー
「パトロンと女達」振付/深川秀夫、音楽/リバティ
「Die Frau」振付/畑野ゆかり、音楽/バッハ
「ファンタジー」振付/深川秀夫、音楽/トゥリーナ