ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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亀田 恵子 text by Keiko Kameda 
[2010.03.10]
From Nagoya -名古屋-

都会の喧騒を離れた一夜限りのパフォーマンス

岡登志子・中村恩恵・垣尾優:『即興45min無の地点』
あいちアートの森 広小路プロジェクト/ダンス&ミュージック即興セッション
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愛知県内では、2010年8月からはじまるあいちトリエンナーレに向けて、プレ企画がいろいろと企画されている。今回行われたあいちアートの森 広小路プロジェクト/ダンス&ミュージック即興セッション『即興45min無の地点』もその1つ。
今回の会場がある栄という場所は名古屋市内でもっとも華やかな場所で、たくさんのビルが立ち並び繁華街も隣接している。会場となったSMBCパーク栄も地下鉄の出口を上がったすぐのロケーションにあり、都会的な雰囲気が漂う。大きな窓ガラスが通り沿いに天井から床まであるロビー空間は、開放的な印象を生み出している。
また、窓ガラスと直角の位置関係にある壁一面には観葉植物が立体画のように植えられ、都会的な雰囲気の中に洗練された憩いもあり、都会の喧騒とは一線を画した場所になっている。窓の外を行き交う自動車のバックライト、高層ビルの灯り、コートの襟を立てて足早に通り過ぎる通行人・・・ロビーの内側から外を眺めていると、日常を傍観している不思議な感覚を覚えた。
 

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19:00ごろ、観葉植物の壁にやや斜めに配置されたイスに座った観客たちがパフォーマンスがはじまるのを静かに待っていると、1人目のダンサー・垣尾優がガラス越しに現れるのが見えた。関西を拠点にcontact Gonzoというユニットでも活動している彼は、ガッシリとした体格にスキンヘッドという一見すると威圧的な風貌だが、「場」を観察しながら身体を置いていこうとする繊細さがある。ぎこちなさや引きつった印象を感じる動きには、過ぎ去るだけの街の風景を巻き戻すような奇妙な魅力がある。屋外の段差を使ってロビーの観客の視界から消えたり現れたりするユニークな動きには、思わず足をとめる通行者の姿が見えた。時間の流れに釘を刺しつつ、ふと笑わせてくれる魅力を彼は持っているようだ。
しばらくすると、2人目のダンサー・中村恩恵がベージュのトレンチコートに身を包んだ姿で登場した。99年までオランダのネザーランドダンスシアターに所属していた彼女は、世界で活躍する優れた振付家との仕事を経験している。そんな彼女から生み出されるムーブメントは凛とした気品に満ちており、登場とともに強い存在感を示すように感じた。華奢な身体から滑り出すように現れる腕の運び、伸びやかな肢体はいつまでも見ていたくなる。垣尾の背中をそっと押しながら動かすシーンでは、彼女の芯の強さのようなものが感じられた。しなやかな強さだ。

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3人目のダンサーは岡登志子。神戸を拠点に活動するアンサンブル・ゾネの振付家・ダンサーである彼女は、愛知県では2007年にピアニストの高瀬アキとの即興デュオ作品を上演している。アンサンブル・ゾネの作品は静謐で美しい絵画を見るような印象があるが、今夜の岡は登場から内面に鬼気迫るものを孕んでいるような様子だった。鮮やかなグリーンのワンピースに黒い上着をはおった彼女はロビーに現れると、観客席とは対角線上に位置した場所で即興演奏をしている内橋和久の方向を見つめたままじっと立ち、やがて肩までの黒い髪が激しく振り乱されるような動きを見せた。ガラス窓に沿って置かれた一人掛けのソファに座る彼女。しかし両手両足がコントロールを失ったように暴走し、からだは勢いで立ちあがってしまう。腕の動きに体幹がねじり上げられていく様子は、内面的な激情が身体を壊してしまうように見えて、大きなインパクトを与えた。
即興コラボレーション作品は、ダンサーの生み出す動きの組み合わせや体つき、場所との組み合わせなどさまざまな要素が重なり合って生まれる新鮮な視点が楽しい。今回の作品は、それらに加えてダンサーの持っているその日、その場でのテンションの組み合わせの妙味も味わえたように思う。それぞれのテンションが示され、それらが交差することで変化したり、まったく違うものが見える瞬間があったり・・・。魅力的な3人のダンサーが織りなす新鮮なひとときだった。
(2010年1月26日 SMBCパーク栄)

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撮影:猪熊康夫
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