ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2009.07.10]
From Nagoya -名古屋-

三島由紀夫『春の雪』に挑んだ市川透&BALLET NEXT

市川透 脚本・演出・振付『春の雪』、マリウス・プティパ 振付『パキータ』
BALLET NEXT
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誰でも参加できるオーディションシステムの登録制カンパニーとして、福田晴美によって立ち上げられたカンパニーBALLET  NEXTの3回目の公演が開催された。振付は今年も、愛知県出身で新国立劇場の現役ダンサーとしても幅広い活躍をみせる市川透が行い、前回にもまして意欲的な舞台を創り上げた。
今回は前回の『ジゼル』や『ドン・キホーテ』のような古典バレエの改作ではなく、三島由紀夫の原作の小説にオリジナルでチャレンジ。海外でも人気の高い三島の作品はベジャールやフォーサイスなども取り組んできた奥の深い作品だが、市川は『豊饒の海』より「春の雪」を選び、さらに、何らかの繋がりを感じずにはいられないという、ベートーヴェンの音楽を合わせ、輪廻転生を下敷きにして、インパクトの強い大作に仕立てた。

主役の聡子は山田繭紀、彼女の恋人の清顕は武藤天華(夜の部は植村麻衣子と陳秀介のダブルキャスト)は、言葉を交わさなくても、十二分に気持ちの伝わる迫真の演技を見せた。迷うことなく清顕へと向かう一途な聡子の強い想いと、思い違いから彼女を裏切る、浅はかな清顕の幼さがもどかしい。断定的な言葉のないダンスのもつ間合いを楽しめる振付、物語を語るわけではないのに、会話が聞こえてくるような2人のパ・ド・ドゥは秀逸だ。山田は昨年までの古典バレエの殻を破って、やや奔放な踊りに挑戦、その大役を見事にこなした。また武藤は、心の変化に注目したというように、ダンスの質感そのものも変化させて、清顕の心の移り変わりを表現するのに成功していた。
 

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市川の演出は、場面ごとに、シンプルな木を組み合わせた衝立を移動させ、黒幕を上手く使いながら、大正時代の華族の緊張感と厳かな雰囲気を創出。前半は比較的ゆったりとした時間軸の中、コマ取りのようなポーズや、それを照らし出す灯りが印象的だ。後半では対照的に、べートーヴェンの音楽に合わせて堰を切ったように流れ出す2人の思いとそれを象徴する六道(地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天人)のリンカーネーションたちは、白髪にユニークなメイクを施し、個性的な動きをみせる。畳み掛け、繰り返される動きが、次々と舞台上に溢れ出し、混乱の様相を見せていく。
主役の2人とは対照的にカルマ役のコロスたちは花魁を想像させる色彩豊かなアンサンブルを踊ったが、ここではもっと質感の異なる様々な動きが見たいとも思った。全体を通して脇を固めた、末松大輔、小林美穂らの楚々とした存在感が物語の重さのバランスを保つのに貢献していた。

市川のこれまでの作品では、様々な振付家の作品を踊ってきたダンサーらしく、異種の振付や演出が散見されているように感じることもあったが、この作品で、彼固有のひとつのスタイルを創り上げたといってもよいと思う。ただ、市川の意図したように確かに物語にぴったりと寄り添うような音楽の強烈な一体感を感じる場面もみられたが、重いテーマの物語と強い音楽に挟まれて、時折やや苦しげなダンスを感じることもあった。場面によっては踊りを自由に羽ばたかせるような音楽を選ぶことによって、作品にさらに深みと余裕が感じられるようになるのではないだろうか。是非再演・改訂することによって、作品の進化を見てみたいと思う。

また『パキータ』では、新国立劇場バレエ研究所6期生の原田舞子と新国立劇場のソリストの陳秀介がパキータとリュシアンを踊った。市川の教え子でもある原田は、長い肢体と伸びやかなダンスで、将来性を感じさせる踊りを見せた。さらに地元のダンサーたちのアンサンブルもリハーサルの成果を感じさせるものだった。
(2009年5月31日昼 名古屋市芸術創造センター 撮影/杉原朗)

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脚本・演出・振付:市川透、音楽:ベートーヴェン
原作:三島由紀夫『豊饒の海』より
出演:BALLET NEXT
聡子:山田繭紀、清顕:武藤天華、繁邦:末松大輔、蓼科:小林美穂
『パキータ』
パキータ:原田舞子、リュシアン:陳秀介