ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2008.07.10]
From Nagoya -名古屋-

『遊べ!はじめ人間』、Shizuoka 春の芸術祭2008

 『遊べ!はじめ人間』は、「Shizuoka 春の芸術祭2008」の謳い文句どおり、まさに大人も子供も楽しめる愉快な作品だ。鈴木忠志氏から芸術監督を引き継いだ宮城聰氏が、昨年はじめてこのカンパニーの日本招聘を行い、大好評を得ての再演となった。

 カメルーンからきたラ・カルバス・カンパニーには、民族を超えた様々な国の出身者、そしてダンスに限らず、歌や音楽、映像といった様々なアーティストたちが同居している。その表現は太古の昔、ダンスや音楽のはるかなる起源をも感じさせるプリミティブなものだ。しかしそれだけではない。アフリカ伝統舞踊を基盤としながらも、そこには現代を見据え、あたかも人種や国境を軽々と超えているかにみえる今日、グローバリズムを通過しながらも、様々な機会に境界線を常に意識せざるを得ない、ニヤカムの鋭い眼差しをみることができた。

 黒い肌の上に真っ白な土が塗られた、まるで舞踏家の白塗りのような身体の男女が、何かに突き動かされるように、体を震わせながら激しく踊り、それに呼応するようにパーカッションを叩き合う。それだけでは原始的なアフリカの儀式や民族舞踊との差異を感じることは困難だが、原始的な生身の身体と、ビデオ映像の中に映し出された歪んだ身体が対比されると、それまでと一転して客観的な振付家の視線を感じることになる。映像の使い方も、ニヤカム自身が映像の魔術師モンタルヴォーのカンパニーに参加していたということもあるだろう、非常に洗練されており、土着的なパフォーマンスとは極めて対照的だ。さらにアフリカの伝統音楽と現代音楽、そしてクラシック音楽が交錯し、過去から現代への時間の経過が複雑に編みこまれていく。痙攣するかと思うほど激しく歌い踊るうちに、身体に塗りこめられた白い土は汗とともに床に剥がれ落ち、しだいに黒い皮膚が現れてくる。白はビックバン以前の「はじまり」の色だと、アフタートークで語っていたニヤカム。しだいに表出する現実の身体は、現在を肯定しつつも、しかし疑問を投げかけるべき対象なのだという、彼のメッセージが聞こえてくるようだ。

 我々人間の祖先といわれる、クロマニョン人をイメージして舞台を創作したというが、猿から人間に、太古から現代に進化した過程は、本当に幸せだったのだろうか。何かを置き忘れてしまってはいないか。理解することばかりが先行して、感じる力をなくしてはないか。そんなことを突きつけられる、楽しいが、かつ自然に深い洞察へと導かれる深遠な作品であった。カメルーン国立バレエで主席ダンサーを務めていたほどのニヤカムとカンパニーメンバーのダンスは、理屈抜きに身体とそこから溢れ出る命のリズムを感じることができる雄弁な踊りだった。

 公演終了後に、会場の観客を巻き込んだ身体を使ったリズム遊びが導入された。民族性に基づいた本能と直結するようなダンスを見た観客たちは、すでんむずむずと踊りたくなっていたに違いない。会場にきていたすべての観客が、「待ってました」とばかりに、この遊びに参加したことは言うまでもない。

振付:メルラン・ニヤカム、出演:ラ・カルバス・カンパニー
(2008年6月20日 静岡芸術劇場)