ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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唐津絵理 text by Eri Karatsu 
[2007.04.10]
From Nagoya -名古屋-

新進アーティストの発見inあいち「舞踊部門」ダンス公演

 愛知県が次世代を担う若手振付家の育成を目指して開始した新プロジェクト「新進アーティストの発見inあいち」のダンス作品発表公演が開催された。
 このプロジェクトでは、愛知県にゆかりのある振付家志望の舞踊家を公募し、選考、ワークショップ形式での創作、劇場でのリハーサルを経て、実際に作品の発表まで行うものである。筆者は、このプロジェクトにプロデューサーとして参加したので、簡単にレポートしたいと思う。
 日本における振付家の育成を推進する試みとして、作品を発表する場を提供する様々な企画や劇場が関東・関西を中心に増えつつある。しかし日本における舞踊界の問題はまだまだ多い。システム化された舞踊の教育機関をもたない日本では、「振付」そのものを学ぶには、多くの場合、実際の現場で経験を積むしかない。そこで、「新進アーティストの発見inあいち」では、発表の機会の提供に加えて、現役の振付家が講師として関わることによって、彼らの豊富な経験を若手アーティストに伝え、さらに密度の濃い創作体験が可能となるようなワークショップ型のプロジェクトにすることを試みた。

 初回の講師は、いずれも愛知県出身で世界的に活躍する3人の振付家。シュツットガルト・バレエにて、ジョン・クランコなど一流の振付家に最先端のバレエを学んだ深川秀夫、舞踏からコンテンポラリーまで幅広い活躍をしながら、完成度の高い作品を発表してきた伊藤キム、そしてザハロワなど、一流のバレエ・ダンサーへの振付も行っているコンテンポラリーの平山素子という日本を代表する振付家の面々。憧れの振付家が見守るリハーサルは、さぞ緊張感の漂う時間となったことだろう。たとえ彼らがその場に居ただけだったとしても、そんな場所こそが、作品への意識を否が応でも高めてくれるものになっていたに違いない。発表された作品は、バラエティ豊かな講師陣を反映して、形式も作風も多様な6作品となった。担当講師ごとに簡単に紹介したい。



 

 
畑野ゆかり
『術~Die Methorde~』

 深川秀夫が担当したのは、ポワント(トゥシューズ)を使用した2作品。愛知県在住の畑野ゆかりは、すでに数々の作品を創作してきているが、今回、様々なジャンルの舞踊家が関わるこのプロジェクトに参加することによって、バレエ特有のポワントのテクニックをあらためて意識する契機となったという。作品のタイトルは「術(すべ)~Die Methorde~」。スパンコールが散りばめられたアシンメトリーな衣装やポワント、全体が黒ぶちの舞台は、アバンギャルドな下町の小劇場のような雰囲気を醸し出す。大舞台で上演されるバレエ作品が、200席ほどの小ホールで上演されるだけでも、いつもとは異なる様相が立ち上がって見えてくる。シンフォニック音楽の用い方も手堅い。普段当然に思っていることを、一度疑ってみることによって、新たにはじまることも多いはず。ドイツでの経験を生かして、さらなる挑戦を期待したい。出演は、廣瀬尊子、大久保睦子、南部真希、細川麻衣、渡邉実智、畑野ゆかりが好演。


 

 
山田洋平
『俎上の魚』


山田洋平
『俎上の魚』
 東京在住の山田洋平が取り組んだのは「俎上の魚」。小ホールが、巨大なまな板に見えたところから発想したという。愛知在住のコンテンポラリーダンサーの石川雅実を魚に見立て、魚がまな板から食卓に上るまでの生贄の儀式を舞台化。儀式を組み立てるのは、猪俣陽子(NBAバレエ団)と丸山香織(スターダンサーズバレエ団)、稲村はる(ナチュラルダンステアトル)と工藤洋子の4名。作品構成に大きく関わるのが、2種類の音楽だ。最初の雅楽の「盤式調越天楽」では、石川を中央に配し、ダンサーが四方向を取り囲むことによって、厳粛な儀式を表現。続く松平頼則の「主題と変奏」では、テンポが次々と変わっていく変拍子の特徴を表現するために、バレエとコンテンポラリーのタイプの異なるダンサーを登場させたという。その成果は上々で、テーマの捉え方や、そのための表現手法など、センスの良さを感じさせる振付だ。ただ、既存の音楽構成にこだわりすぎたために、物語と音楽のイメージに食い違いを感じた場面があったのが惜しまれた。


 

 
『エミリー』
三輪亜希子

 伊藤キムが担当したのは、2名の女性舞踊家。名古屋出身の三輪亜希子は自作自演による『エミリー』を上演。はかなげで、その実はしたたかな「くらげ」からイメージを膨らませ、怪しげで小悪魔的な等身大の女性を表現。白と緑の大きな輪の美術を背景とした舞台中央には、くらげをモチーフにした半透明のオブジェがぶら下がっている。そのオブジェに関わりながら、三輪自身のリアルな身体にこだわったダンスを執拗に繰り返す。自作自演ゆえ、個人の内側にあるものをどのように剥ぎ取って形象化して見せるかが振付のポイントであり、その点から、特に前半のダンスは秀逸で、三輪の身体から作品世界が立ち上がるのに成功していたと思う。

『エミリー』
三輪亜希子


瀧瀬麻衣
『What is life all about』
 愛知在住の瀧瀬麻衣は、今回最多となる14名のダンサーに振付けた。幕開け、黒幕に映し出される若者への問いかけの文字。そしてタイトルの『What is life all about』」の文字が消えると、7名の女性ダンサーが登場。横断歩道や車の音など、ストリートで拾い集めた現実のノイズ音と問いかけの言葉のコラージュに、日常的な動きを重ねていく。それは次第に流麗なダンスとなり、気がつくと彼女たちの傍らには7名の男性たちが立っている。そんな男性にしがみついては、払いのけられ、落とされてしまう女性たちの姿が、現実世界を象徴するようで印象的。本作品のために集まった7名ずつの名古屋在住の女性ダンサーとアフター・イマージュの男性たち。ここには選考で選ばれなかった舞踊家も含まれたが、共に今回の創作プロセスに立ち会うことによって、ひとりひとりのダンサーたちが学んだことも大きいはずだ。


 

 
瀧瀬麻衣
『What is life all about』

 平山素子がアドバイスを行ったのは、彼女の作風とはかなり雰囲気の異なる2作品、いずれも男性だけのデュオとソロ。

 名古屋在住の小山田魂宮時の作品は『TRANSITIONS=変移』。劇場空間にある音やダンサーの動きから発するノイズをマイク、スピーカー、そしてダンサーの身体へと、リサイクルし、変移していくという実験的な試みだ。開場時から舞台上手奥に置かれたDJブースでは、音楽家・松井伸倍軋が音響の準備をしている。その前に置かれたスタイリッシュな椅子。この椅子を基点に、小山田は、ペットボトルやビニール袋を使って様々な音を出しては採集。舞台が暗くなると、松井のコンピュータ操作がリアルタイムで、舞台上に映し出される。採取され、変換された音のループと並行して、時には映像にも絡みながら、小山田は静かに動きを重ねていく。コンテンポラリーやストリート、ブレイクダンス風の動きも取り入れ、着実に動きを連ねながらも、音の変移に伴ってダンスや空間そのものの質感までが変化。鮮やかな短パンが観客にインパクトを与えたように、さらに動きの強弱を明確にすることでより強い印象を残せる作品になるだろう。

小山田魂宮時
『TRANSITIONS=変移』


 

 
小山田魂宮時
『TRANSITIONS=変移』

 ソロダンサーの村上和司の『RED MAN~I know~』は、2002年初演の同作品のシリーズで、一人ぼっちの恐怖と孤独、というテーマで創作。何枚も重ねた赤のTシャツを、コミカルな動きを伴いながら、次々と脱いでは捨てていく。帽子を口まで被った頭の上から、ペットボトルの水をかぶり、帽子を呼吸で風船のように膨らます。こうした村上のシンプルな行為そのものが、繰り返されたり、奇妙な状況下に置かれることによって、生きることへの必死の闘争に見えてくる。動きとちょっとズレた「黒猫のタンゴ」などの音楽が、その行為に、ユーモアと悲哀を与えるのに効果的だ。そこには、「必死でもがき楽しんで生きている」という村上自身が、より緻密に「振付」され、表現されていた。


 

 
『RED MAN~I know~』村上和司



『RED MAN~I know~』村上和司
 さらに、11日には、振付家と講師によるアフタートークを開催したが、作品について、自分の言葉で説明できることも振付家にとって大切なことだろう。
 このプロジェクトでは、主催者サイドのスタッフや講師が、リハーサル会場の確保から、舞台技術のワークショップ、舞台スタッフとの打合せの調整など、作品創作に必要なプロセスを手助けするという、若手の振付家には、またとない好条件での創作となった。しかし、ここが出発点。今後の彼らの活動に注目していただきたい。
(3月10日&3月11日、愛知県芸術劇場小ホール)