ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2006.03.10]
From Nagoya -名古屋-

アンサンブル・ゾネの『釘を打つ』&フォーラム・イベントでの岡登志子の即興ダンス

神戸を拠点に活動するアンサンブル・ゾネの本公演が全国3ヶ所で開催され、愛知芸術文化センターの小ホール公演に立ち会うことができた。
 主宰の岡登志子は、モダンダンスの殿堂のひとつドイツ・フォルクヴァング芸術大学舞踊科でダンスを学んだ後日本に戻り、1994年より継続的に作品を発表してきた。カンパニーのメンバーには同大学の同期生も多く、今回の公演では、ファビオ・ピンクとアネリーゼ・ソーリオがドイツから駆けつけ作品創作に参加。

 舞台正面に現れた赤い一枚の大きなセロハン、照明と表面のしわの加減でできるかすかな反射。稲田誠のコントラバスの生音が、右手袖中から聞こえてくる。タイトルの示すように、空に釘を打つ動きをゆっくりと繰り返す伊藤愛。その動きモティーフにして、身体の軌跡はしだいに放射線状にうねりを描いていく。動きはさらに、2つになり、3つになり・・・、体格の異なる6名のダンサーで踊られる。日本ではダンサーの骨格や風貌、密度といったものがこれだけ異なるカンパニーも珍しい。ユニゾンや群舞でも、完璧に揃えるわけでもなく、かといってばらばらではない。秩序の中の自由、そこが社会に生きる私たちの姿に重なる?そのままで良いのだ。

奇をてらったダンス作品が増えている中、これほど力学に忠実で、まっすぐ真な動きは貴重だ。曖昧な動きはどこにもない。そこにこそ、身体の強度は形成されるのだ。今回、そこに加わることを許された唯一の存在は、稲田の即興演奏。明確な動きにわずかな自由を与えるように稲田は水となり、魚を解き放った。

生演奏に、時おり流れるPAからの電気音、ダンサーの呼吸、そしてうめき声が観客に覆いかぶさり、床に這いつくばる男女はいつの間にか獣のように見えてくる。観客を見据えたその目は、威嚇するようにも、また怯えているようにも感じられる。こうした様々な振付の断片がいくつも織り重なって、イメージは形成される。イメージが強い磁力を放つのは、岡のもつ身体の知性のなせる業なのだと思う。

 本公演の次の日。愛知芸術文化センターにある美術館ロビーで開催されたフォーラム・イベントには、本公演では振付に徹して、出演しなかったアンサンブル・ゾネ主宰の岡登志子が登場。

 フォーラム・イベントは、愛知県美術館で開催されていた「吉原治良」展に合わせて企画された。吉原治良は、前衛的な美術運動「具体派」のリーダーとして、日本ではじめてパフォーマンスを行った美術家のひとりであり、21世紀になった現在、コンテンポラリーの舞踊家と音楽家が、こうした場所で吉原の絵画に立ち向かう意味は大きいだろう。岡が真っ白なマットの上に横たわると聞こえてくるかすかな音。岡は吉原の絵画に象徴される朱色に近い赤い衣装を身にまとっている。稲田誠と愛知在住の松井一平(ギター)、亀山佳津雄(ドラム)は、空間の緊張感を感じながら静かな音を立ち上げていく。岡は、絵画と強く向き合うことを決意したかのように、幅90CMほどの白く細長いバレエマットの上を少しずつ、しかし力強く、確実に歩みを進めていく。白い床にひときわ際立つ赤い布を纏った身体、それを見つめる数百の瞳が、空間をより強く緊迫させていく。ダンサーの呼吸と静寂な佇まいをもつ音楽、そして吉原の絵画が、新たな空間の可能性を切り開いた贅沢な1時間であった。
(2006年2月18日 愛知県芸劇場小ホール、2月19日 愛知県美術館ロビー)
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