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桜井 多佳子 text by Takako Sakurai 
[2005.02.10]
From Osaka -大阪-

●貞松・浜田バレエ団の『くるみ割り人形』

クリスマスシーズンの『くるみ割り人形』上演が、東京ほどに盛んとはいえない関西だが、 貞松・浜田バレエ団は、89年春にこの作品を初演したのち、翌90年にはクリスマスシーズンに公演。以来、何度も上演し、いまではすっかり神戸に『くるみ割り人形』は定着している。

 再演のたびに、その舞台はどんどん充実してきた。最初は「借り物」だった美術が少しずつ新調された、といった目に見える変化も大きいが、舞台全体の空気も明らかに変っていった。 子役で出演していた生徒が入団し、やがてソリストとなるというケースが多いため、舞台上のダンサー全員がこの作品に愛着を抱いている様子。それが客席にも伝わってくる。

 今年は12月25日と26日の2回公演。初日の主役は正木志保と貞松正一郎、二日目は、初めて主役に挑戦した竹中優花と、やはり王子役を初めて演じるアンドリュー・エルフェストン。二日目を見た。

 第一幕に登場する『少年たち』を少女たちが演じる場合が(日本では特に)多いが、このバレエ団では、みんな本物の(?)男の子が演じている。だから迫力は抜群だ。 付属のバレエ学園のボーイズクラスが充実しているからだろう。しかもみんな、良家の子弟風の「お行儀」が身についていて、なんとも頼もしく、可愛らしい。 ドロッセルマイヤーは、初演時からこの役の泉ポール。素敵だが、どこか不気味な紳士の役を、独特の存在感で演じていた。フランス人形の正木志保はメカニックなテクニックで人形ぶりをアピール、 ピエロの武藤天華は、ペトリューシュカ風の哀愁を漂わせた。騎士人形の恵谷彰は、スパルタクスのような勇壮な踊りを見せていた。

クララ役の竹中は、表情豊かで愛らしい。好奇心旺盛な少女クララ像が、踊るのが楽しく、幸せそうな竹中と完全に一体になっているようだった。エルフェンストンは、ニュージーランド・バレエ団出身。 長身で素晴らしく優しい笑顔が、クララだけでなく観客をも幸せな気分にさせてくれた。

ねずみの王様がセリから登場したり、戦いの場で宙乗りが披露されたり、どの場面も飽きさせることはない。ドラマはスピーディに展開して、クララと王子は雪の国に着く。 雪の女王の吉田朱里が美しかった。身体をしなやかに躍らせる。気品あふれる姿だった。特記したいのは雪のコール・ド。 かなりテンポアップしたオーケストラ演奏(堤俊作指揮、ロイヤルメトロポリタン管弦楽団)に乗せて、ダンサーたちは軽やかにスピーディに踊っていた。 よく見ると、コール・ドの主になっているのは、上村未香、佐々木優希、武用宜子ら、同バレエ団のそうそうたるメンバーたち。さすがに見ごたえある場面に仕上がっていた。

フルーツの精たちは、何度みてもかわいらしい。クララと王子を、小さい天使たちが迎えるのも、このバレエ団の特色だろう。お菓子の国でも、ダンサーの個性がそれぞれ鮮やかに表れていた。 佐々木優希&安原梨乃(お茶)の明るさ、吉田朱里(ゼリー)のセンスのよさ。恵谷彰を中心に、男性5人が踊るクッキー(ロシアの踊り)が、場内をさらに盛り上げた。

貞松・浜田バレエ団の『くるみ割り人形』は時間をかけて練り上げた芸術品、と同時に、観客を楽しませようというサービス精神にあふれたエンターテインメントでもある。 神戸市民に支持されているのは当然、と思えた。
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